第二話 再会の乾杯

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 車の速度が緩やかになったと思ったら、警備人が立つ門の中に入った。  門を通ってしばらく進むと地下駐車場に入った。  すると、お店の人なのかスーツ姿の男性が私たちを出迎えてくれた。    「倉木様、お待ちしておりました」  車を降りると、男性は私と倉木さんに一礼する。  男性の案内で屋内へと繋がるガラス扉を抜けると、足元だけライトアップされた薄暗い廊下を歩いた。  緊張してそわそわする心を、ゆったりと流れるクラシック音楽が解してくれる。  廊下の先に、木製の扉が見えた。  案内してくれていた男性が扉の前で止まる。  どうやらここが私たちの部屋のようだ。  男性が扉を開けると、大きなガラス窓の前に一つの席が用意されてあった。  窓ガラスの向こうにはライトアップされた美しい庭園。  綺麗……と思ったのと同時に、個室で良かったとほっとした。  人目を気にせず心置きなく食事が堪能できる。  促されるまま、ほどよい高さと沈み具合のシングルソファに座ると、千紘さんも席についた。  「僕はノンアルコールにするけど、乃々花ちゃんは飲んでいいからね」    「いいえ。私も千紘さんと同じものをください」  「じゃあノンアルコールのシャンパンにしようか」  千紘さんが飲みものを伝えると、男性は一度部屋から出て行った。  「素敵なお店ですね。秘密基地みたい」  「ははっ。秘密基地か。でもあながち間違ってないかも」  千紘さんは、にいっと口角を上げて悪戯に笑う。  そういう笑い方もするんだ。  綺麗なのに可愛い。  「ここ、政治家とか財界の人たちがお忍びで使うこともあるらしいから」  「なんと! では、ここで日本の未来が決まってるんですね。あんなことやこんなこととか、そんなこととか」  「ふふっ……そこまでかはわからないけど。公では話せないようなことを話してることは間違いないと思うよ」  「……それは、すごいところに来てしまいました」  国家機密に関わることを話し合ったり?  とんでもないスキャンダルをもみ消したり?  時には血生臭いことも……。  この場所で行われているかもしれないことを想像するだけで、胸がドキドキしてしまう。  「堅苦しいの苦手だから。ここなら個室だし、いいかなと思って」  個室お食事処という条件だけで、政治家や財界人と同じ場所をチョイスするなんて、千紘さんは何者なのだろう。  やっぱり、お神? それとも王子?     あまり考えたくはないけど……や〇ざ屋さんとか?  貫禄はないと言っていたけど、独特の風格は感じる。  本物は穏やかだというし、倉木さんも人目を忍ぶような変な時間帯にお店をやっているし。  案外、これは当たりかもしれない。  そうこうしているうちに、男性が戻ってきて、テーブルに二つのグラスを置いた。  そして、「10分後にお食事をお持ちします」と告げて、すぐに部屋から出て行った。  グラスに注がれた黄金色の液体。  しゅわしゅわと音を立てて、無数の気泡を発していた。
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