第二話 再会の乾杯

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 「ありきたりだけど、再会に――乾杯」    「はい。乾杯」  〈チンッ〉と、二つのシャンパングラスが音を鳴らす。  シャンパンは甘口で美味しかった。  ノンアルコールなのに、お酒のような芳醇な香りがする。  味の違いなどわからない素人の私でもわかるほど高級な味がした。  「失礼いたします」  シャンパンを半分ほど飲んだところで、男性が木製のワゴンを押して部屋に入ってきた。  てっきりコース料理で前菜からやってくるのかと思いきや、男性がテーブルに置いたのは桐の重箱。    三段に重なったお重を、一つ一つ並べていく。  小さな仕切りがたくさんある三つの重箱には、たくさんの料理がちょこっとずつ入っていた。  まるで宝石箱のように、きらきらと輝く料理の数々に心を奪われている間に、細かく書かれたお品書きの紙を置いて男性は部屋を後にした。  「ここ本当はコースなんだけど、乃々花ちゃん時間とか気にせずに自分のペースで食べたいかなって思って、お弁当にしてもらったんだけど」  「……」  「えっと、一皿ずつの方が良かったかな?」  「……」  すぐに返事をしなければならないのに、きらきらか輝く宝石箱を前にしたら、心がふわふわして言葉が出てこなかった。  千紘さんが不安そうにしている様子も視界に映っているに、胸がいっぱいで、すぐに口が動かない。  単純に、宝石箱だけに心を囚われているわけではない。  一日のスケージュールがある中で、お店を選んで、予約してくれて、私のことを考えてコースではなく宝石箱に変えてくれた千紘さんの思いやりの心と行動に、胸の中がいっぱいになっていた。  「……ありがとうございます」  「余計な気をまわしたかな」  「いいえ。すごく嬉しいです」  「本当?」  「はい。気兼ねなく食べられます」  「良かった」  ほっとしたような顔で息を吐く千紘さん。  「でも、すみません。お腹は空いてたんですけど、もしかしたら残してしまうかもしれません」  「えっ、苦手なものとかあった?」  千紘さんは慌てたように身を乗り出す。  「いいえ。そうではなくて」  あんなにお腹がぺこぺこだったのに。  また冗談みたいな音がお腹から鳴ってしまったらどうしようと不安なくらいに。  だけど今はもう、このすべての料理を食べきる自信がない。
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