第二話 再会の乾杯

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 「胸がいっぱいなんです。千紘さんの優しさで」  心と体が密接に繋がっていることは科学的にも証明されている。  だから多分気のせいではなくて、千紘さんの優しい気持ちでお腹が膨れてしまったのだ。  今なら成人女性の1.5食分くらいしか食べられない気がする。  千紘さんと一緒にいると、がりがりに痩せてしまうかもしれない。    会う時間を作ってくれただけでも嬉しいのに、私のことを考えてくれたことが本当に嬉しい。  千紘さんの優しさで心がいっぱいになっている私に、「っとに、君は直球だよね」とつぶやく声が聞こえた。  「なんでそういう可愛いことをさらっと言うかな」  「へ?」  千紘さんは突拍子もないことを言う。  可愛いこと、言ったかな?  私はただ、せっかく用意してもらった料理を残してしまっては申し訳ないと思って、食べられないかもしれないことを先に言わないといけないと思っただけなのに。    千紘さんはふわふわの髪をくしゃっと掴んで、そっぽを向く。  「……いや、ごめん。こっちが勝手に浮ついてるだけ」  「浮ついてる?」  「うん。浮ついてると思う」  「それなら、私もふわふわしてますよ」  「えっ?」  「千紘さんに会えて、美味しいものを前にして、嬉しくて。ふわふわしてます」  「……うん。じゃあ一緒だ」  「はい」  「だけど……むやみに可愛いことは言わないように」  「あの、どうしてですか?」  何が可愛いことなのかは正直わからないけど、どうしてダメなのかだけでも教えてほしい。  それだけでも分かれば、今後の自分の身の振り方も考えられる。  大人と呼ばれる年齢なのに、ノンアルコールじゃないシャンパンだって飲めるのに、いつまでも未熟な精神。  子どもだなと思いながらも、無理に変わろうとしなくていいと思っていた。  だけど、もしもまた、こうやって千紘さんと会うことがあるのだとしたら、少しだけ大人になりたいと思った。  千紘さんの隣を歩いても、千紘さんが恥ずかしくないくらいには、心も大人になりたいと漠然と思った。      
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