第一話 お神との出会い

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 「救急車呼ぼうと思ったんだけどね、意識を確認するために声をかけていたら『ごはん、食べたい。お腹、空っぽ』って呟いてたから、この子は空腹で倒れたんだってわかったんだ」    「はい。ご名答です」    「そしたら、店から父さんが出てきて、君のこと知ってるって言うから」    「父さん?」    「うん。まごころ弁当の店主」    「倉木さん?」    「うん。あの人僕の父親なんだ」    「そうだったんですか……」    「不規則な生活をしててよくお弁当を買いにくる子だって言ってたから、とりあえず家に運んで、起きたらごはんを食べさせてあげようってことになったんだ」    「い、いまなんと!?」    「勝手なことをしてごめんね。でも身元もわからなかったし、病気じゃないのに救急車を呼ぶのも違うかなって思って、ひとまず家に連れてきたんだけど。親御さん心配しているよね」  「いいえ。一人暮らしなので」  「そっか。良かった」  空腹で行き倒れになっていた私に、ごはんを食べさせるために家に運んでくれたの?  全くの他人の私を。  24時も過ぎているというのに。  なんだ、この(ほとけ)親子は。  感激のあまり言葉を失っていると。  「ぐううぅ~ぐるるるるるる」という、獣の鳴き声のような空腹音が自分のお腹から響いた。  「ふふっ、本当にお腹空いてたんだね」  「……面目ないです」  「ごはん用意してるからおいで。一緒に食べよう」  「いいんデスカ!?」  「今さら何言ってるの? そのために連れてきたんだよ。ほら、急に立ち上がるとまたふらつくだろうから、僕の服掴んでて」  「……お神」  この人はきっと五穀豊穣をもたらす神様。  お腹を空かせて倒れた私を見かねて、天上から降りてきてくれたのだろう。  お神に言われるまま、私はゆっくりとソファから立ち上がった。  「お神は、大きいんですね」  ソファから見上げているときも大きいと思ったが、立ち上がって隣に立つと、改めてお神の大きさを実感した。  私の身長が155センチと小柄なのもあるけど、それにしてもでかい。
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