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「あんたうちの会社にどんだけ利益もたらしてると思ってんの? うちの自社ビルの建て替えは乃々先生のおかげだって社長が言ってるくらいよ。こっちはね、社長から『乃々先生には必ず出席していただくように』って半ば脅されてんのよっ!」
ちなみに〈乃々〉というのは私のペンネーム。
「……脅すなんて、村瀬さん優しそうな人じゃないですか」
毎年行われている慰労会で何度か会ったことがあるけど、如月さんが勤める出版社の社長さんこと村瀬さんは、50代くらいの紳士的な優しい男性に見えた。
「あの狸爺が優しいわけないじゃないっ。仕事はめちゃくちゃできるけど、マジで腹黒い男よ。乃々花、あんた絶対あんな男に騙されんじゃないわよっ!」
「騙されるもなにも、関わりないから大丈夫ですよ。でも……私やっぱりそういうところ苦手なんです」
慰労会とういう名のパーティーも本当は遠慮したいくらいだったけど、如月さんにはお世話になっているから二回に一回は出席していた。
だけど、100周年の創立記念パーティーとなると規模も大きいだろうし、出席者の数も桁違いだろう。
そんなところでパーティーを楽しむ余裕などない。
パーティーの食事はちょっと、だいぶ、気になるけど……。
「マスコミ関係は一切招待してないし、業界関係者しかいないから! お願いよ~。あたしの顔を立てると思って、ね?」
「う~……そういうふうに如月さんに頼まれると私が断れないの知ってますよね」
「もち!」
星が飛んできそうなウインクが届いた。
「はぁ~……わかりました。出席します」
「あーんっ! もうっ、乃々花ありがと!」
「だけど、最後まではいれませんよ?」
「わかってるわよ。社長に挨拶するだけでいいから。そうと決まればドレス用意しておくわね。またあんたに似合いそうなやつ見繕って何着かマンションに送っておくわ」
「いつもすみません。あっ、そういえばドレス……助かりました」
如月さんにプレゼントされたドレスに助けられたことをたった今思い出した。
「ドレス? って、えっ、もしかしてあたしが今年の誕生日にプレゼントしたやつのこと?」
「はい。そうです」
私が頷くと、如月さんは目と口を大きく開いたまま固まっていた。
「……あんた、あのドレス着るような場所に行ったってこと?」
「はい。ああいった大人の装いはあれしかなかったので、本当に助かりま」
「いつ!? どこで!? 誰とっ!?」
あまりの興奮で如月さんの唾が私の顔に思いきりかかった。
わぁ、汚い。
私は嫌な気持ちを隠さずに、唾だらけの顔をハンカチで拭った。
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