第三話 神様の正体と予期せぬお願い

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 「けど、ちょっと目立ちすぎるかも……」  「えっ?」  「可愛い過ぎるかもって言ってんのよ」  ふにっと頬を掴まれる。  「うにゃ」  せっかく頑張ったメイクが崩れる……。  「独身の男も多いからあたしから離れるんじゃないわよ?」  「はい。言われなくても離れません」  私は如月さんの腕をがっちり掴んだ。  如月さんは編集さんというより、私の保護者のような存在。  父のような母のような姉のような兄のような。  私をこの世界に導いてくれた恩人であり、誰よりも頼りになる人。誰よりも信頼している大切な人。  「とりあえずあんたは今日一日にこにこ笑ってなさい。いいわね」  「はい!」  私は如月さんに連れられるまま、パーティー会場に向かった。  予想していた通り、毎年行われる慰労パーティーとは比べものならないほどの人の数だった。  会場も迷ってしまうほど広くて、気を抜くと一瞬で迷子になってしまいそうだ。  如月さんが金髪で良かったと心から思った。  きんぴかの頭はどこにいても目立つ。  会場内に着いた頃には、ちょうど社長の村瀬さんが壇上で挨拶を始めた頃で、ぎりぎり乾杯に間に合った。  そこからは堅苦しい挨拶などもなく、立食パーティーが始まっていた。  お寿司を握る職人さんがいて、ステーキを焼くためだけのシェフもいる。  何を食べようかときょろきょろしていると、「乃々先生」と聞き覚えのある低い声がした。     「村瀬さん……」  「今日は来て下さって本当に嬉しいです。乃々先生はこういう場所にあまり顔を出してくださりませんから」  にこにこ笑みを浮かべながら村瀬さんと秘書さんが私の元にやってきた。  何度か会っている人だけど、やっぱり緊張してしまう。  お世話になっている会社の社長さんだからというのもあるけど、村瀬さんは私が知る限り、一番貫禄のある大人だから。  「私は世間知らずの未熟者なので、みなさまに失礼があったらと思うと申し訳なくて」  心を落ち着かせて、村瀬さんに向き合った。  「ハハハっ、なにをおっしゃいますか。乃々先生のようにお若くて才能のある美しい人が来て下さるとそれだけで場が華やぎます。どうぞゆっくりとおくつろぎくださいね」  「はい、ありがとうございます。このたびはおめでとうございます」  「こちらこそ、いつもありがとうございます。今後ともどうぞ末永くよろしくお願いいたします」  村瀬さんは秘書さんと共に別の方へ挨拶に向かった。  「上出来です」  隣に佇んでいた如月さんが、私に顔を向けることなく言い放つ。  主催者でもある村瀬さんに挨拶ができれば、もうここに来た役目は果たしただろう。  少なくとも如月さんの顔は立てることができたと思うと、ほっとして、どっと疲れがやってきた。
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