第三話 神様の正体と予期せぬお願い

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 「場所、変えようか」    「はい」  千紘さんに言われるまま、私たちは会場の出入り口まで歩いた  会場を出るまで四方八方から好奇な視線とひそひそ声が聞こえたけど、気にしないことにした。  千紘さんは迷うことなくエレベーターに乗り込むと、42階のボタンを押した。  ガラス張りのエレベーターが、どんどん上へと上がっていく。  エレベーターの中は二人きりなのに、どちらも口を開くことはなかった。  そして、あっという間に42階に着いた。  42階は、バーラウンジだった。  地上150mから見える絶景が、大きな窓ガラスいっぱいに広がっていた。  「座って」  人がいないスペースを選んで、ソファに座るように促された私は、黙って腰を下ろした。  千紘さんは席にやってきたスタッフにノンアルコールカクテルを二つ頼んでから座った。  そこでようやく、私と千紘さんは顔を見合わせて、合わせたようにくすっと笑った。  「驚いたよ」  「私もです」  三回目に会う場所が、まさか仕事関係だなんて、私も千紘さんも考えもしなかった。  「乃々花ちゃん、業界の人だったんだね」  「いいえっ。私なんて、普段は縁のない世界で生きていますから」  「もう君が何者なのか聞いてもいい?」  そう。私たちはお互いの名前と年齢、そして住所まで知っているのに。普段何をやって生活しているのか、お互いに知らないのだ。  あえて知る必要もないし、詮索するのは失礼だと思っていたのは私だけではなかったのだろう。  「私は、クリエイターです。乃々という名前でイラストを描いています」  「クリエイターかぁ。なんか納得。イラストってどんな?」  「柴犬の風太郎というキャラクターを描いています」  ここまで素性を知られたら、もう隠し通すことはできない。  私は自分の素性をすべてを明かすことにした。  「えっ、それ知ってるよ。テレビ局にポスターが貼ってあったの覚えているよ……いつからこの世界に?」  「15歳です。中学3年生の時に如月さんに声をかけてもらって、そこから今に至ります」  「……15歳。そんなに若い頃から。只者ではないなって思ってたけど、乃々花ちゃんすごい子だったんだね」  「いいえっ。すごくなんかないです。私は運がよかっただけですから」  私のことなどどうでもいい。  もうこちらの身分を明かしてしまったのだから、千紘さんのことも聞いていいだろうか。  「千紘さんは、脚本家さんだって如月さんが言ってましたけど本当ですか? 鉄砲玉を撃ったり撃たれたりではなく?」  業界でも有名な大物脚本家だって……。  本当に、千紘さんが如月さんの言ってたその人なの?  「鉄砲玉? ……あー、なんか君の考えてることがわかってきたかも」  千紘さんは額に手を当てて笑いをこらえているようだった。
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