第三話 神様の正体と予期せぬお願い

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 「ごめんなさい。もう絶対言いません」  もういいと言われるまで、視界に入るように生きていきます。  「名前も呼んでくれる?」  「呼びます。何度でも呼びます」  倉木先生なぞ、知りません。  「じゃあ今言ってみて」    「千紘さん」  「うん。もう一回」  「千紘さん」  「うん」  千紘さんに笑顔が戻る。  思わず見惚れてしまうほど、とても綺麗な微笑みだった。  「乃々花ちゃん」  「はい」  「今日のドレスも、すごく素敵だね」  「へっ……あ、ありがとうございます」  不意打ちを食らって、急に恥ずかしくなる。  「可愛い」  「……ありがとうございます。千紘さんにはいつも褒めてもらって、嬉し恥ずかしです」  ほっとした気持ちと、照れもあって、だらしなくにへらと笑ってしまったのが自分でもわった。  「君の魅力的な姿を他の人にも見られたのは悔しいけどね……」  「悔しい、ですか?」  「うん。会場の男たちはみんな君に注目していたみたいだし」  「あの~……それは千紘さんの気のせいだと思います」  「気のせいじゃないよ。あれは、なかなか不愉快だった」  「不愉快、ですか?」  千紘さんの言うことが本当だとしても、私は気づかなかったし、気にもしていないから、平気だ。  私の気持ちに寄り添ってくれるのはありがたいけど、千紘さんが気に病む必要はないのに。  千紘さんは本当に優しい人だなぁ。  「……乃々花ちゃん」  「はい?」  「僕にお礼がしたいって言ってくれたよね? あれって、まだ有効?」  「もちろんです! 私にできることがあるのでしたら、なんでも言ってください」  空腹で道端で倒れた私を拾ってくれて、温かい部屋で、美味しくて優しいごはんをたくさん食べさせてくれた神様のようなその人は、地位も名誉も財産も、何もかも手にしていた。  そんな人に自分は何ができるのか考えても、答えは出なかった。  だから、もしも私に望むことがあれば、なんでも応えたいと思う。  どーんと構えていた私に、千紘さんは綺麗な笑顔でこう告げた。  「僕の恋人になってほしい」  突拍子もないお願いに、私の時は止まった。    千紘さんと過ごした三度目の夜。  思いもよらないお願いに、私の頭は宇宙へと旅立った。
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