第四話 仮の恋人のはじまり

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 「すみません。せっかく食事持ってきてもらったのに」  握りたてのお寿司食べたかったな……。  焼き立てのステーキも。  《そういうことじゃないわよっ! 倉木先生とあんたの関係でもちきりだったのよ!? あたしは他の作家やクリエイターたちに詰め寄られて、社長にもどういうことなのか根掘り葉掘り聞かれてっ! でもなーんにも知らないから、知り合いだったみたいですって言うしかできなくて、あーもうっ超つかれたっ》  「すみませんでした」  朝電話をとる時に、如月さんからの着信が10件以上あったのを見てぎょっとしたけど、そういうわけだったのか。  《で?》  「はい?」  《はいじゃないわよっ! あんたと倉木先生ってどういう関係なの? 恩人って言ってたけど、本当にそれだけなの? 悪いけど、あたしの目にはそうは見えなかったわよ》  ぎくり。  さすが如月さん。鋭い。  「えっとですね……」  《乃々花》  「はい。えーっと。あれ~おかしいなぁ、なんか電波が悪くなってきたみたいですね。東京タワーに不具合でもあったんでしょうか?」  《おい、こら》  「おかしいですね。じゃあもう切りますね~」  《乃々花っ!》  ――ぶつっ。  これ以上の追求から逃れるため、電話を切った。  千紘さんと恋人(仮)になったことを伝えてもいいものか、わからなかった。  仮の恋人というのは周りには内緒だと言われたから、恋人だと言えばいいのだろうけど、私は嘘が得意じゃない。  昨日の今日だし、恋人設定を上手く伝えられる自信がない。  恋人だと伝えたら伝えたで、また色々追求されそうだから、如月さんには悪いけど、この話題はまだ封印させてもらう。  「……眠い」  如月さんに電話で起こされて、まだ10時半だというのに起きてしまった。  不規則な生活のせいですっかり夜型になっている私にとって10時台はまだベッドの中。  起きるのはお昼を過ぎてから。    布団をかぶって、私は再び目を閉じた。
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