第四話 仮の恋人のはじまり

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 「はい、もしもし」  《乃々花ちゃん、今大丈夫?》  「はい。大丈夫です」  昨日の今日だから、ちょっと緊張してしまう。  そわそわする私をよそに、千紘さんの声は普段通りだった。  《ごはんってもう食べた?》  「いいえ。まだです。今まさにデリバリーしようとしてました」  《良かった。もし良かったらなんだけど、ごはん作りに行ってもいいかな?》  「なんですと?」  あなた、今なんて言いいました?  《今さ、すぐ近くにいるんだけど。乃々花ちゃんのマンション行ってもいい?》  「まさか、うちで、ごはんを、作ってくれるのデスカ?」  《そうしたいんですけど。いかがでしょうか?》  「お、お神……」  《はははっ、だからそれはもういいって》  「ぜひ! 食べたいです」  《良かった。じゃあ買い物してから行くから、部屋番号教えてもらっていい?》  「はい。5001号室です」  《わかった。30分くらいで着くと思うから》  「はい。ありがとうございます」  《うん。じゃあまた後でね》  「はい」  電話を切った後、私は急いで脱衣所に向かった。  夕ごはんの時刻だというのに、まだ顔も洗っていないのだ。  熱いシャワーを全身に浴びて、素早く顔を洗って、髪も洗った。  髪を乾かして、部屋着のワンピースに着替えた。  「調味料は、一通りあるよね」  キッチンもリビングダイニングもピカピカなのは掃除が行き届いているからではない。  2LDKの部屋で、私は作業部屋を兼ねた寝室にばかりこもっているから、リビングダイニングは使っていないのだ。  キッチンなんかは綺麗すぎて自炊していないのがばればれだ。  そうこうしているうちに、オートロックのインターホンが鳴った。  モニター画面には買い物袋を持った千紘さんが映っていた。  「今開けますね」  ロック解除ボタンを押すと、正面玄関の扉が開く。  そして、エレベーターの前でもう一度インターホンが鳴る。  モニター画面に、また千紘さんが映った。  「はい、どうぞ」  解除のボタンを押すと、エレベーターが開く。  このように、来客者は訪問する部屋の住人がインターホンにある解除ボタンを押さなければ、マンション内に入ることもエレベーターに乗ることもできないようになっていた。    そうして、部屋のインターホンが鳴る。
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