第一話 お神との出会い

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 「お神っ……ありがとうございます」    「うん。あのさ、そのお神ってなに?」  お神の疑問を無視して、私は山菜おこわのおにぎりにも手を出した。  そして、お神が作った神スープを一口飲んだ。  まごころ弁当のお惣菜のような、優しいお味だった。  「美味しい?」    「最高でひゅっ!」  エビフライを口に運んでいる最中だったため、語尾は風に飛ばされた。  ひゅってなんだと自分でも思ったけど、そんなことも気にしていられない。  からっからに乾いた体と心が、美味しさと優しさで満ちていく。  「いい食べっぷり」  お神が笑顔を浮かべて私を見ていることも気づかずに、私は止まることなく次々と〈幸せ〉を口に運んでいった。    とにかく、食べて、食べて、食べた。  もうお腹いっぱいこれ以上は食べられないと思って、ふとテーブルを見ると、どうやら私は用意された食事の9割も食べていたようだった。  「ご馳走さまでした! 美味しかったです~」  「本当によく食べたね。そんなに小さくて細い体のどこに……」  お神がそう言って私の姿をじっと見つめる。  気のせいか胸のあたりで目線と言葉が止まったような……。  そして、決まりが悪そうに視線をそらすお神。  確かに胸はよく育った。胸だけは。  「お見苦しい姿を見せてすみません。私、食べることが大好きで……それなのに、ここ一週間は部屋に缶詰でまともな食事をしていなかったので、つい」  「そうだったんだね。満足してもらえたなら良かったよ」  「はい。それに、お神が作った神スープもとっても美味しかったです。弱った体にすーっと染み渡りました」  ふわっふわの溶き卵と青ネギが入ったシンプルな卵スープなのに、すごく美味しかった。  大お神(倉木さん)に似て、お神も料理上手なのだろう。  「それは良かった。ところでさっきから、そのお神ってなにかな? まさかとは思うけど僕のこと?」  「はい。お神は五穀豊穣の神様なんですよね」  こんなに美しくて上背(うわぜい)で、優しい微笑みを浮かべている男性など見たことない。  この豪邸も天の住処(すみか)なのだろう。  敬服を込めた真っ直ぐな眼差しでお神を見つめた。
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