第四話 仮の恋人のはじまり

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 「ごはん、お代わりする?」  「いただきまふっ!」  空になったお茶碗を勢いよく千紘さんに差し出した。  千紘さんは「ちょっと待っててね」と言って、席を立つ。  その間に、千紘さんお手製のサラダを口に運んだ。  ナッツとオリーブの実が入った洋風のサラダに、千紘さんお手製のにんじんドレッシングが最高にマッチしていた。  たったの一時間程度でドレッシングまで作るって、この人どうかしてる(褒めてる)。  帆立のカルパッチョなんて、家で初めて食べた。    メインは、牛肉のタリアータ。なんだそれは。  ミディアムレアに焼かれたステーキがスライスしてあり、濃厚なバルサミコソースがかかっていた。  食べみると、それはもうとーっても美味しくて、肉料理の中で一番好きになった。  とうもろこしのスープも、濃厚で、舌触りもなめらかだった。  「おいひい~」  「あはは。良かった」  お米はうちにあったもので、炊飯器も同じものなのに、自分で炊くよりもふっくらつやつやしてるのはなぜだろう。  お米を炊くとき、炊飯器に氷を入れていたけど、あれが秘密なのだろうか。  全然わからないけど、千紘さんが倉木さんに負けず劣らず料理上手なことだけはわかった。  そして、やっぱり誰かと一緒に食べた方がごはんは美味しいことを再認識した。    せめてこれくらいはと無理やり洗い場を占拠して食器を洗っている私の横で、「お茶入れるね」と、千紘さんがキッチンに入ってきた。  「なにからなにまですみません」  「謝らなくていいの。僕がやりたくて来たんだから」  「私、千紘さんにしてもらってばかりですね」  出会ってから今までずっと、私は千紘さんに与えてもらうばかり。  私がしたことと言えば、諭吉20枚を渡したくらいだ。  なんて下衆いんだ……。  何でも持っていて、なんでもできる千紘さんに私ができることなんてないことはわかっているけど。  こうも甘えっぱなしだと、いつか罰が当たりそうだ。
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