第五話 大人な彼の意外な一面

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 それでは遠慮なく。  遠慮という言葉など知らない行動をしているので今さらだけど、改めて全く遠慮なくいただきます。  私は千紘さんお手製のクラムチャウダーに口をつけた。  「ワオ……レストランの味だ」  「それは言い過ぎ」  言い過ぎでもなんでもない、こんなクラムチャウダーがお家で食べられるなんて、信じられない。  あさりのだしがこんなにきいているクラムチャウダーは初めて食べた。  しかも、ぷりっぷりの大ぶりのあさりがたくさん入っている。  クラムチャウダーなんて、今までそんなに食べてきたことはなかったけど、間違いなく好きなメニューの一つになった。  今度は、トースターで温めてくれたソフトフランスに手をつけた。  言われた通り、千紘さんが持ってきてくれたバターをつけて食べてみる。  「ふぁー……美味しい~」  コク深いバターが口の中いっぱいに広がる。  ソフトフランスもかりっとしたと思ったら、中の生地はふわふわで、とても食べやすい。  ここはどこの高級ホテル?  我はいつから王様になったのじゃ。    私は千紘さんを呼びつけたことを後悔し始めていた。  こんなキラキラの朝ごはん食べさせられたら、他の朝ごはんじゃ物足りなく感じてしまう。  「……」  「すごい。完食だね」  そんな贅沢な悩みを抱えているうちに、私の手と口は無意識に動いていたようで、気づいたらお皿は空っぽになっていて、お腹はいっぱいになっていた。  「ごちそうさまでした!」  慌てて千紘さんに頭を下げて、やられる前に食器を片付けた。  うかうかしていると千紘さんは食器まで洗おうとするから。  料理まで作ってもらって後片付けまでしてもらうなんて、私はどこの王様だ。  「デザートも持ってきたから、お茶入れるね」  「きゅーん」  ああ、もう人間など辞めてしまおう。  千紘さんの犬になろう。  そんなことを本気で思って、なんとかとどまった。
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