第五話 大人な彼の意外な一面

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 食器を片付け終わると、温かい紅茶と瓶に入ったプリンが私を待っていた。  「これ、うちの近くにある洋菓子屋さんのプリンなんだけどね、なめらかですごく美味しいんだ」  「プリン、大好きです」  「本当? 良かった」  「千紘さん、大好きです」  「……えっ?」  ぽかんとする千紘さんをよそに、私は手を合わせてからプリンをいただいた。  満腹なのにデザートの余裕はあるのだから不思議なお腹だと思う。  スプーンを入れると、柔らかいプリンがとろっと崩れていく。  こぼさないように口の中に運ぶと、なめらかでクリーミーなプリンは口の中でとろけた。  「……ふぁ~、シアワセ」  こんな幸せな朝があったなんて、知らなかった。  それもこれもすべて千紘さんがもたらしてくれた幸せなのだと思うと、仮とはいえ私なんかを恋人にしてくれて感謝しかない。  これじゃあ御礼にならないような気もするけど、こんな幸せに対抗できる術など持ち合わせていない。  こんな調子では期限がやってくる前に、もう面倒くさいと言われて関係の終わりを告げられるかもしれない。  とても悲しいけど、それも仕方ないと思う。  だって、私と千紘さんでは何もかもつり合いがとれていないし、私にできることなど何もないのだから。  「プリン、美味しかったです。ごちそうさまでした!」  もう本当に満腹で、このままベッドに行ってお昼寝したいくらいだ。  にこにこ笑いながら千紘さんに視線を向けると、千紘さんはいつになく真剣な表情で私を見つめていた。  「あのさ、さっきのって僕の聞き間違い?」  「さっきの?」  なんのことだろう。  わからなくて首を傾げた。  「だから……僕のことを、好きって言ったよね?」  「ああ。はい。言いました」  思わず心の声がもれていたことか。  美味しいごはんを作ってくれて、デザートまで用意してくれた千紘さんに、感情がおかしくなったのだ。  風太郎で例えるなら、嬉ションしてしまったような感じだ。
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