第一話 お神との出会い

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 「はははっ。それ本気で言ってるの? 君、面白い子だね」  お神が笑うとぱっと花が咲いたように周囲の空気が華やかになる。  「君さ、天然って言われない?」  「はい。よく言われます。お神はなんでも知ってるんですね」  天然、ずれてる、ファンタジー。  学生の頃からよく言われてきた言葉だ。  空想の世界に浸るのが好きだからだろうか。  でも今では、そんな空想を想像して、自分の生業(なりわい)になっているのだから人生とは不思議なものだと思う。  「残念だけど、僕は五穀豊穣の神様ではないよ」  「では何の神様なのでしょうか?」  「僕は何の神様でもないの」  「えっ、ではもしや……神の神?」  神を司る神。  ゴッドマザー?  でもそれなら大お神の立場は……ああ、わからない。  「ふはっ。だからそうじゃなくて……僕は君と同じ人間」  「人間……ですか? そう……人間でしたか」  人間、なんだ。  てっきり五穀豊穣の神様かと思った。  絶対そうだと思った。  だって、空腹で道端に倒れた人間を家に運んで、手厚く介抱してくれて、ご馳走を振る舞ってくれるなんて、誰だってそう思うに決まっている。  こんなに綺麗で、背も高くて、優しい人が、私と同じ人間だなんて……。  「……すみません。ちょっと驚いて、動揺しています」  頭が混乱してきた。  「うん。僕も驚いてるよ。君が本気でそう思っていたことに」  お神は変わらずにこにこ笑っていた。  「ではお名前を伺ってもよろしいですか?」  「えっ」  お神は一瞬ためらう様な素振りを見せた。  神様ではなくとも、常人に知られてはいけない存在なのだろうか。
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