第五話 大人な彼の意外な一面

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 「……だから、そういうことさらっと言うのやめてって前に言ったよね?」  前? ああ! そういえばそんなようなことを言われたような気がする。  なんだったか……そう、確か。  可愛いことを口にするのは止めて欲しいと。  胸がどきどき。動悸がするからやめてほしいと。  なるほど。千紘さんを大好きと言うことは、動悸がするような可愛いことになるのか。  だけど……これは、やめれるだろうか。  「意識せず言葉に出てしまう時はどうすればいいでしょう」  こんなに美味しいものを食べさせてくれて、優しくしてくれる人に、尻尾を振るなと言われて、できるだろうか。  意図してやっているわけではないから、難しい。  感情を抑えるのは、どうも苦手だ。  「そうやって素直に気持ちを伝えてくれるのは、すごく嬉しいけど。こっちも色々耐えてるから、乃々花ちゃんも気をつけてほしい……」  「……耐える? 何を耐えるんですか?」  とんちんかんな私を張り倒したくなる衝動?  それとも、幼稚な私を大人の女性に教育したくなる欲求?  私に対して千紘さんが耐えていることなど、それくらいしか思いつかなかった。  「それは……言うと、君は困るから」  「困りません」  むしろ、如月さんで慣れている。  さすがに張り倒されたことはないけど、延々とお説教されることは少なくない。  自分に非があることはわかりきっているから、千紘さんからの指摘も大人しく受け入れるつもりだ。  「嫌な気持ちになると思う」  「なりません」  むしろ嫌な気持ちにさせている方が嫌だ。  「僕を軽蔑すると思う」  「しません」  私の方が軽蔑されることしかしていない。  それなのに、変わらず笑ってくれる神様のような千紘さんを軽蔑するなど、絶対にない。  私が千紘さんを軽蔑するなんて何様だ。  まだしてもいないのに想像だけで自分に腹が立ってくる。  「教えてください!」  このままでは、きっと仕事が手につかない。  私はずいっと身を乗り出して、千紘さんからの返事を待った。  千紘さんは私から顔を逸らして、目線を下げる。  遠慮しているのだろう。とても言いにくそうだった。  私はそんなに我慢をさせていたのか……。
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