第五話 大人な彼の意外な一面

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 何歳になっても、良い子だね、頑張ったねって、よしよししてもらえると、私は嬉しいけどな。  「じゃあ、千紘さんにはやめておきますね」  嫌な人もいるとは考えもしなかった。  子ども扱いされるのは大人としてのプライドが許さないとか?  そういうプライドのない私は、やっぱり大人になれていないのだろう。  また変なことをしてしまったと反省していると、  「……嘘。訂正」  力が抜けたような声が頭上から降ってきた。  「えっ?」  「……恰好つけました」  「はい?」  「……よしよし、してほしいです」  「ふふっ」  そうか、格好つけたのか。  大人だから、男の人だから、格好つけてしまったのかな。  やっぱり、千紘さんもよしよししてほしかったんだ。  「千紘さんは偉い」  ちゃんと大人でいようとしているからこそ、格好つけるのだろう。  甘えた心を隠して体裁を繕えるなんて、偉い。  ちゃんとした大人の人として生きている証だ。  私が千紘さんのお母さんだったら、良い子だねってぎゅううっと抱きしめたくなる。  「良い子だね、千紘さんは」  今は私で勘弁してもらおう。  よしよし、背中を撫でる私に、千紘さんは無言で抱きしめる力を強くした。  千紘さんに王様の朝食を作ってもらった日。  大人な千紘さんの大人じゃない部分を知った。
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