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第六話 初めての衝動
「付き合ってるって? あの倉木千紘と?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
これで5回目になる如月さんからの確認に私はうんざりしていた。
打ち合わせも兼ねて食事に誘われて、お店の個室に入った途端、開口一番「倉木先生との関係を教えなさい」と詰め寄られた。
だから、答えたのだ。「恋人です」と。
もちろん、仮の恋人であることは誰にも秘密だから、そこは伏せて。
「マジで!? あの倉木先生と乃々花が?」
ええ、わかりますよ。
あんなに綺麗で優しくて多才な千紘さんと、のほほん漫画を描いてる引きこもり芋虫女の組み合わせなんて想像もできないのだろう。
「どっちからって、倉木先生よね……」
「えっ、どうしてわかったんですか?」
「だって、あんたの頭の中なんて恋愛のれの字もないじゃない」
「れの字くらいありますよ」
「いっちょまえに見栄張ってんじゃないわよ。何年あんたと一緒にいると思ってんの」
「……すみません。見栄張りました」
私は如月さんに降伏した。
「でも倉木先生が乃々花をねぇ……」
如月さんが不躾なほどじろじろ見てくる。
そんな目で見られなくても不相応なことは自分が一番よくわかっている。
でもこういう女らしさを感じない私だからこそ、千紘さんは最適だと思ってくれたのだ。
とは言えないため、ぐっと口を噤んだ。
「ああ見えて、おっぱい星人とか?」
「おっぱい星人ってなんですか? どこの星の人です?」
おっぱいの惑星からきた人?
じゃあおっぱいないとおかしいじゃないか。
千紘さんは貧乳に見えたから違うと思う。
「ばーかっ、そういう意味じゃないっつーの! おっぱい好きって意味よっ」
「おっぱい好き? それはないと思います」
「なんで言い切れんのよ」
「だって……」
思わず抱きしめてしまって、わざとではなかったけど、結果的に千紘さんの顔に胸を押し付けるようなことになった時。
それはもう思いきり跳ねのけられて、
『いや、ごめん。胸が顔に当たって、気おかしくなるから』
私の脂肪が当たって、気分がおかしくなると言われたのだ。
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