第六話 初めての衝動

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 「してないです。それって恋人になるとみんなしてるんですか?」  「ぶぁーかっ! 当たり前じゃないっ! むしろそれがしたくて付き合ってるってもんじゃない!」  いつになく鼻息の荒い如月さんに圧倒されそうになる。  そして少しだけ引いた。  「あの、私前から疑問に思ってたんですけど、それって絶対にしないとダメなんですか?」  赤ちゃんがほしいわけでもないのに、恋人になるとセックスをしないといけないのだろうか。  恋人はおろか、恋もしたことのない私には、どうしてセックスをしなければいけないのかわからなかった。  「ダメとかダメじゃないとかじゃないの。したいのよっ!」  いつになく声に熱がこもる如月さん。  そういえばこの人、こういう話大好物だった。  「はあ……」  「好きな人ができるとしたくなるのっ! これは自然なことなのよ」  「自然なこと、ですか」  「そうよ。尿意を感じたらトイレに行く、お腹が空いたらごはんを食べると同じように、好きだからセックスをしたいの。自然に湧き上がる気持ちなの」  「私、全然湧き上がらないです」  「それは倉木先生のこと好きじゃないのよ」  「ええっ! 好きですよっ」  千紘さんのことは好きだ。  それは絶対に間違いない。  だけど、セックスしたいとは思わない。  「好きは好きでもセックスしたい好きじゃないの。もしくは、まだそういう段階じゃないとかじゃない?」    「……なるほど」  「キスはどうだった?」  当然のように尋ねられて、私は首を傾げた。  「キス? そんなことしてないですよ」  「はあっ!? あんたたち付き合ってどれくらいなの!?」  勢いのあまり如月さんの唾が飛んできた。  如月さん、汚い……。  「二週間くらいですかね」  顔についた如月さんの唾をナフキンで拭きながら答えた。  「家に行ったりとかは?」  「あります。何度かうちにも来てます」  「キス、ないの?」  「はい」  「マジかよ……」  如月さんが男の声になる。  頭を抱えてぶつぶつと独り言を話してる如月さんを無視して、私はメインのヒレステーキを頬張った。
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