第六話 初めての衝動

4/9
前へ
/166ページ
次へ
 毎度のことながら如月さんのお店のチョイスは文句のつけようがない。  質も量も素晴らしくて、完全個室なのも嬉しい。  「いやでも、めちゃくちゃ潔癖とかの可能性もあるし……」  ぶつぶつ言ってる如月さんをよそに、私はお肉を口に運んだ。  「……キスしたら止まらなくなるから? それ以上したくなるからとかっ? あの倉木大先生が? ええーっ、想像したらなんか萌えるんですけど~!」  如月さんは興奮すると独り言が大きくなる。  これも私たちが個室を選んでいる理由の一つ。  どうやら妄想が相当フィーバーしているようだ。  私のことを頭の中がファンタジーだと言うけれど、如月さんも大概だと思う。  「乃々花はっ!?」  そして突然矛先がこっちにやってくる。  「はい?」  「乃々花、セックスは置いといて、倉木先生とキスはどう?」  「どうって、どういう意味ですか?」  「したいかしたくないかよっ!」  「誰かとキスをしたいと思ったことなんてないです」  23年間生きてきて、人間とキスをしたいと思ったことなど一度もない。  「ああっ、もうっ! じゃあ、したくないとも思う?」  「したくない? 嫌ってことですよね?」  「そうそう」  「……う~ん」  千紘さんとキスか。  風太郎にはよくする。嫌な顔をされるけど。  人間にしたことはないからわからないけど、千紘さんとキスをすることを想像しても嫌な気持ちにはならない。  ちょっと、だいぶ恥ずかしいだけで、気分が悪くなるとか、そういうことは全くない。  「多分、嫌じゃないです」  「うっはー! いいじゃないいいじゃないっ。じゃあキスしちゃえっ」  「いやいやっ。私が嫌じゃなくても千紘さんが嫌かもしれないですよ」  「このどぉあほぅっ!!」  「いだっ」  如月さんから強烈なデコピンをもらった。  ここまで強めなのは久しぶりだ。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1215人が本棚に入れています
本棚に追加