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「来週の水曜日、箱根行かないって言ったんだけど、聞いてた?」
「すみませんっ。聞いてませんでした」
「あははっ。正直だなぁ。日帰りだけど、どうかな?」
「えっ、泊まらないんですか?」
東京から日帰りで行ける距離ではあるけど、せっかくならゆっくりしたい。
美味しいごはんを食べて、温泉に入って、だらだらしたい。
千紘さんが忙しいなら一人でも泊まりたい。
「えっ、逆にいいの?」
千紘さんは目を丸くして私に尋ねる。
「どういう意味ですか?」
逆にとは?
「……いや、乃々花ちゃんが嫌かなって、思って」
視線を逸らして口ごもる千紘さん。
「私がどうして嫌なんですか?」
「だって泊まりって、一日中一緒だよ? もちろん乃々花ちゃんが嫌なら部屋は分けるけど」
「嫌じゃないですよ! 千紘さんとなら絶対楽しいですもん」
「っとに……嬉しいこと言ってくれるなぁ」
千紘さんが目を細めてはにかむ。
いつもより幼く見える笑顔だった。
「あっ、でも部屋は分けた方がいいですね」
「えっ……あーまぁ、そうだよね」
千紘さんの気落ちしたような声も気づかず、私は想定される危機を真剣な顔で伝えた。
「私多分寝相悪いですし。千紘さんのこと蹴り飛ばすかもしれないです。寝ぼけて枕とか投げつけるかも……とにかく、危害を加える恐れがあるので、部屋は別にしましょう!」
千紘さんの身を守るためなら部屋は別の方がいいだろう。
「えっ? それが理由?」
「はい。千紘さんに怪我でもさせたら大変ですから」
「怪我してもいいから一緒がいいって言ったら?」
「えっ……」
怪我してもいいって、どういうこと?
なぜそんな危険を冒してまで……あっ! Mなのかな?
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