第七話 いちばんが欲しい

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 「次は湯もちですよね」  「うん。甘いの続くけど大丈夫?」  「はい。全然平気です。むしろどんとこいって感じです」  「あははっ、すごいなぁ」  千紘さんは楽しそうに笑いながら私を見つめていた。  平日ということもあり、人の数もそこそこで、目的地にはスムーズに着いた。  次に目指すお店は〈湯もち〉で人気のお店。  「何個食べる?」  「えっと、じゃあ3つで」    「はははっ。了解」  竹の皮に包まれたふわふわの湯もちは、白玉粉に練り羊羹を混ぜた柚子が香る上品なお菓子だ。  「そこ座ろうか」  「はい」  千紘さんから湯もちを3つ手渡され、早速一つ口にした。  「……わぁ~」  例えようのないふわふわの柔らかさはまさに新食感。  柔らかくて口の中にすぐに消えてしまう。  全然食べたような気がしない。  味を確認するように、もう一つ、二つと、口にした。  「ん~美味しい」  「えっ、もう全部食べたの?」  「これは多分飲み物ですね」  「いや、おもちだよ?」  「飲み物でした」  「違うよ?」  千紘さんは否定するけど、私からすれば咀嚼がほとんどいらないものは飲み物と同じなのだ。  「もうごはんたけど食べれそう?」  「はい。いい腹ごなしになりました」  おやつを食べたことで胃腸が活発になった気がする。  「乃々花ちゃん、腹ごなしの意味知ってる?」  「はい。もちろんです」  「うーんおかしいな。使い方間違ってると思うんだけど」  「おかしいのは私の専売特許じゃないですか」  「あはははっ、それ自分で言っちゃうんだ」  「もう自分で言っちゃいますよ!」  こっちは開き直って生きてますから。  にししっと笑っている私の肩を千紘さんがぐいっと引っ張る。  「っとに、可愛いなーもうっ」  わけがわからないまま、私は千紘さんに抱きしめられていた。  こんな道端で抱きしめられているせいで、行き交う観光の人たちがじろじろ見てくる。  「っ……」    うん。これはちょっと恥ずかしいな。  だからといって突き放しても千紘さんに恥をかかせてしまうから、千紘さんが腕を解くまでじっとしていた。  「急に、ごめんね」  時間にしてどれくらいそうしていたのかはわからなかったけど、千紘さんのつぶやきとともに背中に回された腕も離れていった。
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