第七話 いちばんが欲しい

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 「はい。本当に、急でした」  「……乃々花ちゃんが可愛いのが悪い」  「えっ、私のせいですか?」  「そうですよ。君のせいです」  「……えっと……気をつけます」  何を気をつければいいのかは、さっぱりわからないけど。  とりあえず、お腹が空いた。    千紘さんに案内されるまま、目的のお蕎麦屋さんに着いた。  「私お蕎麦大好きです」  「僕も。体にも良いし、ヘルシーだし、よく食べるよ」  ここのお店は、水を一切使わず、そば粉、自然薯、卵だけで仕上げた蕎麦が有名だった。  私たちは、お蕎麦、自然薯の山かけ、薬味がセットになった一番人気のせいろそばを注文した。    水を使っていないからか、蕎麦本来の風味が感じられて、すごく美味しかった。  美味しすぎて、一人前で終わるはずが、ついついもう一人前食べてしまった。  「あ~美味しかったです!」  「さすがにお腹いっぱいになった?」  「はい。もうデザートくらいしか入らないです」  「まだ入るんだ。すごいなぁ乃々花ちゃんは」  「いえいえ、私なんかそれほどでもないです」  また褒められてしまった。  千紘さんからは褒められてばかりいる気がする。  美味しいものをたくさん食べさせてくれて、優しくしてしてくれて、褒めてくれて。こんなに甘やかされてしまったら、今以上のダメ人間になってしまう気がする。  「一度旅館に戻って休もうか」  「はい」  旅館までの道のりを千紘さんとのんびり歩いた。  景色をぼーっと見ながら歩いて、時々立ち止まっても、他のものに目を奪われてふらっと寄り道しても、千紘さんは何も言わずに隣にいてくれた。  私の好奇心を止めることなく黙って見守ってくれることが、すごくすごく嬉しくて、千紘さんの優しさに胸がきゅんとした。  ついていない尻尾がくるくると回転して、今すぐ飛びかかりたくなる衝動を抑えて、千紘さんを見上げると。  「……」  千紘さんは無表情で一点を見つめていた。  急に、その場で立ち止まった千紘さん。  どうしたんだろうと不思議に思って、「千紘さん」と声をかけようとした時だった。  「……千紘?」  向こうの方で、彼の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
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