第七話 いちばんが欲しい

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 声がした方向を振り返ると、そこには50代くらいの綺麗な女性がいた。  私は思わず息を呑んでいた。  科学的な証明など必要ないほど、その女性と千紘さんが血縁関係にあることは誰の目にも明らかだったから。  千紘さんが女性で、年齢を重ねたらあの女性の姿になるのだろうと容易に想像できるほど、二人はよく似ていた。似すぎていた。  「千紘……私、」  女性は目に涙を浮かべてこっちに向かって歩いてくる。  どうすればいいのかわからず、とりあえず邪魔にならないように隅っこにでも移動しようかと考えていると、  「行こう」  「えっ、えっ?」  私は千紘さんに右手を掴まれて、引っ張られるように早足で歩いていた。  「千紘、」  まるで彼女がそこにいないかのように、千紘さんは千紘さんにそっくりの女性のそばを無言で通りすぎていく。  私たちの後ろで、女性の嗚咽が聞こえていた。  多分、千紘さんに似た女性の嗚咽だと思う。  千紘さんは歩みを止めないどころか、一秒でも早く彼女から離れるかのように、歩みを速めた。  そして千紘さんに引っ張られるまま旅館に戻ってきた。  部屋に着いて、ふうっと息を吐いた千紘さんは、私の手首に視線を向けてはっとする。  「ごめんっ、手首赤くなってる」  「えっ、ああ、平気です」  強く掴まれていたことで右の手首に赤い痕が残っていた。  痕があるだけで、痛くもかゆくもない。  「本当にごめんね。痛い?」  「いえ、全然」  「濡れタオル持ってくるから」    「えっ、いいですよ」  「だめ。乃々花ちゃんは座ってて」  「……はい」  本当に大丈夫なのに。  千紘さんがこうやって強めに言う時は何を言ってもきいてくれないことは経験上わかっていたから、私は大人しく彼に従った。  千紘さんはわざわざ冷蔵庫から氷を取り出して、冷たい水を用意して、冷やしタオルをつくってくれた。
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