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「乃々花ちゃん、起きて」
「……ぬー……」
「乃々花ちゃん、起きなさい」
「……のー……」
「乃々花ちゃん、もうごはんだよ」
「ゴハン!!」
私はベッドから飛び起きた。
また美味しい夢でも見ていたのか、少しよだれが出ていて、袖でぬぐった。
「先に和室にいるから……浴衣、直して出てきてね」
「へっ?」
浴衣?
そう言われて下を向くと、浴衣が乱れて胸元が露わになっていた。
「わわっ」
しまった。
嫌なもの見せてしまった。
千紘さんはおっぱい嫌いだから、気分悪くしただろうな。
二度と胸元がはだけないように、これでもかと浴衣をしっかり直した。
「お待たせしました」
夕食は和室で部屋食だった。
時刻は18時を過ぎており、すでに多くの品数が運ばれていた。
「わぁ~」
旅館の部屋食なんて、最後に取材旅行で行ったきりだ。
泊まりでの旅行は必ず部屋食にしていた。
必要以上に人と会いたくないのもあるけど、取材旅行の時は部屋の中でもパソコン作業をするから、なるべく部屋から出たくなかった。
旅館を決めてくれた時、千紘さんも同じだと言っていた。
「せっかくだし、乾杯だけでも飲もうか」
「いいですね!」
「乃々花ちゃん、甘い方がいいよね」
「はい。よくご存じで」
ビールも日本酒も、苦いお酒は全く飲めない。
「なんとなく、そうかなって」
「千紘さんにはなんでもお見通しですね」
「ははっ、なんでもじゃないけどね。乃々花ちゃんのこといつも考えてるから」
「わー……その言葉なんか恥ずかしいです」
「えっ、今? もっと恥ずかしいこと今までなかった?」
「えっ……」
あったかな?
考えてみるけど、思い出せない。
もしかしたら、〈恥ずかしいこと〉の基準が人とちょっと違うのかもしれない。
「君は掴みどころがなさすぎて難しい」
千紘さんはちょっとだけ恨めしそうに私を見る。
「いえいえっ。私なんて単純な人間です」
「単純に見せて、掴もうとしたらすり抜けてくでしょ」
「ふらふらしてるんでしょうね~」
「君みたいな子を魔性っていうんだろうね」
「魔性!? えっ、ちょっとかっこいい……」
中二病をこじらせてるみたいだけど、〈魔〉がつくとなんかカッコいいと思ってしまった。
また妄想が膨らんでしまいそうになるところを、「乃々花ちゃーん」という千紘さんの呆れた声が止めてくれた。
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