第一話 お神との出会い

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 千紘さんは少し考え込んでから、私に視線を向けた。  「じゃあ……名前で」  「はい。では千紘さんとお呼びします」  「うん」  はにかむように笑う千紘さんが綺麗で、私はまた見惚れてしまった。  気を取り直して、テーブルの席から降りた私は、床に正座をして千紘さんを見上げた。  「このたびはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。そして、命を救っていただいたこと、心から感謝します。この御恩は一生忘れませんし、必ずお返しさせていただきます」  感謝の意が伝わるように、両手をついて千紘さんに頭を下げた。  「急に何をするかと思えば……そんなことはいいから、ほら顔を上げて? 御恩とか大げさだから。あーもうっ、君っていつもそうなの?」  「はい。わりとそうです」  千紘さんに引っ張られて、無理やり立たされた。  真面目な顔の私とは反対に必死に笑いをこらえている千紘さん。  笑いをこらえるほどの面白いことなどどこにあったのだろう。  「あんなことしなくていいから。御恩とかいつの時代? そんなことよりも」  「はい?」  「君の名前、聞いてないけど」  「はっ! すみませんっ。名乗るほどの者でもないのでつい」  「僕は知りたいの。君の名前、教えて?」  今日、初めて見た千紘さんの真っ直ぐな眼差しに圧されるように、私は自分の名前を名乗った。  「柴咲乃々花(しばさきののか)と申します」  「乃々花ちゃんか……名前も可愛いね」  名前も?  名前だけではないということだろうか。  「それは、私も可愛いということですか?」    「あははっ、すごいストレートだね。しかも全然照れてないし。本当に面白いなぁ」  「すみません……」  多分、私はまた空気を読まずに変なことを言ったのだろう。  思ったことや、気になることがあると、すぐ口に出してしまう。  小さな子どものようだと自分でも自覚している。  人と会うことがない仕事のせいか、中身が全く成長していない。    もう23歳なのだから、自分の発言には気をつけなければならないのに……。
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