第七話 いちばんが欲しい

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 「そうですね。私の人生においてなくてはならない人ですから」  如月さんがいなくなったら、乃々として活動できる自信がない。  それほどまでに、如月さんはクリエイターとしての乃々を支えてくれている。  それが如月さんにも伝わっているからこそ、昇進しても私の担当をしてくれている。如月さんは今年編集長になったから、本来なら編集者としての仕事よりももっとやるべきことがあるのだ。  他にもやらなければならないことがたくさんある中で、私の担当で居続けてくれていることには感謝しかない。  「……乃々花ちゃんにそう思ってもらえる如月さんが羨ましい」  「羨ましい、ですか?」  羨ましい、か……。  よくわからないけど、そんなふうに言ってもらえて、嬉しい。  他の人から見てそう言ってもらえるような関係性ができたのも、すべて如月さんのおかげだから、改めて如月さんに感謝した。  温泉の効果でぽかぽかになった体に、心の温かさも相まって、体がふやけてしまいそうだった。  完全に緩みきった私の元に、千紘さんの真剣な眼差しが向けられる。  「もっと早く君に会えたら、僕もそう思ってもらえたかな?」  思わず、ふやけていた顔が引き締まった。  早く会えていたら? 千紘さんの言葉を心の中で復唱する。  考えるよりも先に、私は千紘さんに答えていた。  「さっきは8年の付き合いですからと言いましたけど……多分、時間は関係ないんだと思います。もちろん積み重ねはありますけど、それだけではなくて」  自分でもよくわからないけど、年数の問題ではないのだと思う。  だって、風太郎とは10年の付き合いで、時間でいえば一緒にいる時間はもっと短いけど、たとえば海に溺れた母と風太郎どちらか一人しか助けられないと迫られた時、私はすぐに母を選ぶことはできない。  最終的には母を選ぶかもしれないけど、即答することはできない。  きっと、すごくすごく悩むだろう。  風太郎を選ばなかったことを一生後悔するだろう。  大切に思う気持ちは時間ととも育まれていくのは確かだけど、でもそれだけじゃない。  大好きの気持ちが大きければ大きいほど、積み重ねた時間など飛び越えてしまう。
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