第七話 いちばんが欲しい

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 「うーん……上手く言えなくてごめんなさい。だけど私、千紘さんと出会ってまだ日は浅いですけど、千紘さんが好きですよ」  「でも如月さんの方が好きでしょ」  「……誰かと比べなければいけないんですか?」  好きな気持ちを比べる必要などあるのだろうか。  如月さんは如月さん。千紘さんは千紘さん。それではだめなの?  「恋人なら、相手の一番になりたいと思うのは普通のことじゃないかな」  「……そうなんですか?」  「一番好きな相手だからこそ付き合うわけでしょ?」  「なるほど。理屈はわかります」  一番好き同士が恋人になる。  千紘さんの言っている理屈は私にも理解はできる。  理解はできるけど、好きな人に優劣をつけるなんて考えたこともない。  というより、考えたくない。  私にだって特別に大切な人の枠はある。  母もそうだし、風太郎もそうだし、如月さんもそう。  だけど、順位をつける必要はないと思う。  みんな特別で、大切で、それではダメなの?  「千紘さんは、一番がいいんですか?」  「うん」  千紘さんは即答だった。  誰かにとって一番になりたいなんて、私は考えたこともなかった。  自分の大切な人にとって自分も大切な存在であったら、それだけで嬉しいし幸せだから。  欲深くないわけではなくて、そこまで深く考えたことがなかったのだ。    だけど、千紘さんは一番になりたいと……。  仮にも恋人だし、一番大切で、一番好きでいてほしいと思うのは普通のことなのかな……。  こんな初歩的なこと、もっと早くに如月さんに聞いておくんだった。  「……うーん……そうなんですね。あの、さっきの話に戻りますけど、如月さんより好きじゃないとかはないですよ? 誰かより誰かの方が好きとか、考えたことないです。千紘さんと如月さんは違う人ですし。それぞれ好きなところも違いますし」  「そうだよね……困らせてごめんね」  「いいえっ。私こそ、嫌な気持ちにさせたならごめんなさい」  もしかしたら、千紘さんの抱く感情は普通のことなのかもしれない。  恋人なら相手の一番でありたいと思うのは、世間一般では当たり前のことで。  私がそういうことが人よりもわからなくて、恋人になると言ったのに中途半端なことをして千紘さんに嫌な思いをさせたのかと思うと、申し訳なくなる。
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