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「嫌な気持ちになったわけじゃない……言ったでしょ。拗ねてたって」
「はい」
「如月さんに比べたら僕なんて君にとってちっぽけな存在なんだろうなって……わかってたけど、改めて思い知らされたというか」
「……えっ、拗ねるって。まさか、それで?」
「……ん」
えっと……整理させてください。
つまり、私と如月さんの電話でのやりとりを聞いて、親しい関係なんだと思ったと。それに比べて、千紘さんは私にとってちっぽけな存在だと思ったら――拗ねたと。
こう言ったら悪いけど、千紘さんがそんな子どもみたいなことを?
信じられないけど、ふいっと顔を逸らしていじけたような千紘さんの姿は、言われて見れば拗ねていた。
「えっと……私、どうしたらいいですか?」
美味しいおやつをあげて機嫌が良くなるのは子どもと私くらいだし……。
「……」
「千紘さーん」
「……」
「倉木千紘さーん」
「……」
うん、本当だ。
この人完全に拗ねてる。
落ち着きがあってスマートな大人な男性が拗ねた時の対処法など知らない。
どうすればいいかわらず、おろおろしていると、「こっち来て」と小さな声が聞こえた。
気のせいか、声まで幼く聞こえた。
私は千紘さんに言われるまま、彼のすぐそばまで近づいた。
「……抱きしめてもいい?」
「もちろんです」
そんなものお安い御用ですと、大きく頷いた。
千紘さんは座ったまま私の体を引き寄せて、自分の脚の間に私を座らせた。
そして、後ろから私をぎゅうっと抱きしめた。
「……しばらくこのままでいい?」
「はい。いつまででも」
「……そんなこと言ったら明日になるよ」
「いいですよ~。明日になっても、明後日になっても」
冗談などではなく私は本気だった。
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