第七話 いちばんが欲しい

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 私の頭の中には倉木さんに言われた言葉が蘇っていた。  『しっかりしているように見えるけど、人に弱味を見せれないだけで、本当は寂しがりなんだよ』  『甘えたい時期に甘えられなかったせいで、なんでも一人でできるようになってしまったけど……一人が好きなわけではないんだ』  倉木さんの言葉といい、今の千紘さんの姿といい……千紘さんの印象が最初と比べて変わっていく。  出会った最初の頃は、優しくて、穏やかで、落ち着いていて、スマートで、でもちょっとだけ強引なところもある大人の男性だと思っていた。  容姿端麗で人柄も良い千紘さん。  それは今も変わらないけど、恋人になってから思うのは……。意外と無邪気なところがあって、悪戯っぽくて、そして……結構甘えん坊なのかなって。  千紘さんの過去を私は知らないけど、私は父が亡くなってから随分母に甘えた。  常に母がそばにいてくれたから寂しくなんてないのに、急にふと、父のことを思い出して寂しくなる時があって、そのたびに母の胸に飛び込んだ。  突然涙が溢れて、言葉が出て来なくなる私を、母はいつもより強く優しく抱きしめてくれた。  私が泣き止んでも、日が暮れて、ごはんの時間になっても「もう大丈夫だよ」と私が言うまで、いつまででも抱きしめてくれた。  心の中から寂しさがすべて消えるわけじゃないけど、母の温かさで寂しさが覆われて、気づかないくらい小さくなった。  私はいつも千紘さんには甘えさせてもらってばかりいるから、もしも千紘さんが甘えたくなった時はいつでも甘えてほしい。  「いつまででも、いいですよ」  私は千紘さんの恋人なのだから。  千紘さんは、私の大切な人だから。    体にまわる千紘さんの手を私は両手でぎゅっと握りしめた。  「……うん」  千紘さんは私を抱きしめる腕に力を込めて、しばらくの間そうしていた。  どれくらいそうしていたのか正確にはわからない。  うとうとしていたら「ありがとう」と小さなつぶやきが聞こえて、体にまわされた腕がそっと離れた。  次に向き合った時には、いつもの千紘さんに戻っていた。  私はあまりにも眠すぎて、意識が半分くらい向こうの世界に行ってたから、正直よく覚えていない。  千紘さんと初めての旅行はとても楽しくて、美味しくて、幸せで……。  だけどそれだけじゃない。  恋人がどういうものなのか、改めて考えるきっかけにもなった。  千紘さんと出会って一か月。  恋人になっても、私はまだ彼のことを知らないことを知った。
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