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第八話 ファーストキス
ソシャゲのために新しいキャラクターを制作していたら、気づけば暦は11月になっていた。
今回もまた、作業に集中すると食べることも寝ることも後回しにしてしまうところだった。
睡眠はともかく、今回はゼリー飲料や冷食ではなく、きちんとした食事を摂った。
食事をおろそかにしなかったのは千紘さんのおかげ。
箱根の帰りの電車の中で、ちょっと仕事が立て込みそうでその間は会えないことを千紘さんに伝えていた。
すると、翌日から私が起きてそうな時間を見計らって、〈今日ごはん食べた?〉と1日に複数回メッセージを送ってくれたのだ。
〈ちゃんとごはん食べなきゃだめだよ?〉
〈何かあったらすぐに呼んでね〉
と、千紘さんがマメに連絡をくれたおかげで、思い出したようにごはんを食べることができた。
朝兼昼のごはんはデリバリーで、夜はまごころ弁当のごはんと千紘さんお手製のスープで乗り切った。
というのも、まごころ弁当にごはんを買いに行くと、「これは千紘から」と倉木さんが千紘さんお手製のミネストローネを出してくれたのだ。
私が夜ごはんを買いに来ることを見越して、倉木さんに預けたのだという。
メッセージではそんなこと一言も言っていなかったのに。
私がもしまごころ弁当に行かなかったら無駄になってしまうのに……。
すぐにお礼のメッセージを入れると、
〈自分の分のついでだから。良かったら食べて〉
と、なんてことないような返事がきた。
ありがたくいただいて翌晩もまごころ弁当に行くと、「千紘から」とまたスープを持たされた。今度はオニオングラタンスープだった。
またすぐにお礼のメッセージを入れると、
〈自分の分のついでだから。良かったら食べて〉
と、全く同じ返事が。
その後三日間連続でまごころ弁当に行くと、連続でスープを持たされた。
集中作業の後はいつも心身共にへろへろになっているのに、千紘さんからのサポートもあり、新キャラクターの提出が終わった後の私は、自分でも驚くほど元気だった。
「ん――! 終わったぁ」
ずっとデスクに座って作業をしていたから、それなりに疲れはある。
だけど、毎日栄養のあるものをしっかり摂っていたおかげで、作業明けだというのに気力も体力も残っていた。
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