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《そっちこそ忙しそうじゃん。うちの小児病棟でも風太郎めっちゃ人気だよ》
「えー嬉しいなぁ。今度ね児童用の絵本も作る予定だから、もし良かったら寄贈させて?」
《えっ、マジで? めっちゃ嬉しいよ。みんな絶対喜ぶ》
「うん。私も嬉しい」
クールに見えて実はとっても愛情深いみやびちゃん。
きっと病院でも患者さんから慕われているのだろうなと想像すると胸が温かくなった。
《それで?》
「うん?」
《乃々花が連絡してくるなんて、なんかあったんでしょ?》
「へっ!」
ぎくり。
思わず声が裏返ってしまった。
《あんたさ、あたしが看護師になってからあたしのこと気遣って全然連絡してこないじゃん。それでも連絡してきたってことは、なんかあったんでしょ》
「……みやびちゃん、鋭い」
《何年一緒にいると思ってんの?》
みやびちゃんとはお互い言葉を喋る前からの仲だから、もう20年以上の付き合いになる。
高校を卒業してからは、頻繁に連絡をとることもなくなって、会うこともめっきり少なくなったけど、電話をすればすぐにあの頃のように戻れる関係はみやびちゃんくらいだ。
友達というよりも、もう家族同然の存在。
そんな人に、嘘をつくことはできかなかった。
「みやびちゃん私ね、仮の恋人ができたの」
《……はあ!?》
私はできるだけ簡潔に、千紘さんと仮の恋人になった経緯を説明した。
その間、みやびちゃん最後まで黙って聞いてくれたけど、なんとなく、言いたいことが山ほどあるような空気を電話越しに感じた。
「……というわけでして」
《はぁっ……》
みやびちゃんは小さく息を吐くと、間髪入れず《どあほっ!》と叫んだ。
「っ!」
耳が、耳が……。
耳の奥に『どあほ!』の残響ががぐわんぐわん残る。
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