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《あたしいつも言ってたわよね? 食事と睡眠は疎かにするなって。若いうちは無理できるかもしれないけど、そういうことの積み重ねで体は疲弊していくの。不規則な生活の積み重ねが、取り返しのつかない病気を生むの》
「……はい」
中学生なのに金髪でタバコをふかして深夜まで徘徊していたみやびちゃんが、あの頃「お前殺すぞ」が口癖だったみやびちゃんが、真っ当なことを言ってる。
看護師さんからの指摘に反省しなければいけないのに、あの頃を見てきた幼馴染としては感慨深いものがあった。
ジーンとしている私をよそに、みやびちゃんのお小言は止まらない。
《助けてくれた人がたまたま身元のちゃんとした親切な人だっただけで、もしやばいヤツだったらどうなってたか……》
「……うん。そうだよね」
私を拾ってくれた人が千紘さんだったことは、本当に幸運でしかない。
そう考えると、私は人に恵まれている。
みやびちゃんも、風太郎も、如月さんもそうだ。
会う人みんな、私に幸運を運んでくれる。
人との出会いに関しては、私は強運の持ち主なのかもしれない。
《それにさ、その千紘さんって人、本当に女嫌いなの?》
「えっ?」
《だってさ、乃々花の話聞いてたら、その人めちゃくちゃ優しいじゃん。親切だし、紳士的だし……女嫌いってあんたと一緒にいるための嘘とかじゃないよね?》
「ええっ! それはないと思うよ?」
《……まぁ、そうよね。干すくらいだもんね》
「……うん」
プライベートで私以外の女性と千紘さんが接しているところは見たことがない。
お店の女性には丁寧な対応をしていたけど、それはお客としてだから、カウントできない。
だけど、千紘さんが嘘をつくというのは考えにくい。
《で、要はその千紘さんに何かお返しがしたいと》
「うん。考えても考えても思い浮かばなくて」
色々経験豊富なみやびちゃんに助けを求めたというわけだ。
中学生の頃から年上の恋人がいたみやびちゃんなら、大人の男性が喜ぶこともわかるだろうと思ったのだ。
《乃々花からの話だけで判断することはできないけどさ、その千紘さんて人あんたのこと好きでしょ?》
「うーん。嫌われてるとは思わないけど、好きかどうかはわからないなぁ」
《はあ? あんたどんだけ鈍感なの? どう考えてもめちゃくちゃ好きじゃん》
「でも好きって言われたことないよ?」
嫌われているとは思ってない。
でも、私は一度だって千紘さんに「好き」と言われたことがないのだ。
面白くて、一緒にいて楽しくて、食べさせ甲斐のある子だと思っているくらいで、好きとまで思ってくれているかは私にはわからない。
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