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《言わなくても行動でわかるでしょ? ていうかめちゃくちゃ行動で示してるじゃん! それで好きかどうかわからないなんて思われてるとか、千紘さん可哀想なんだけど》
「えー……うーん……でも、好きだとしたら言葉にしない?」
好きの気持ちが生まれると声に出てしまうものではないの?
私は、母にも、風太郎にも、如月さんにも、みやびちゃんにも。千紘さんにだって、好きな気持ちが自然と声に出てしまう。
ネガティブな感情ならまだしも、ポジティブな感情を胸の内に秘めておくことなど私にはできない。
《それは乃々花が素直だからでしょ? ……愛情いっぱい注がれて、自分の感情を真っ直ぐに伝えられるような環境で育ったからよ。あたしみたいに、不安や不満を抱えてひねくれて育った人間は、あんたみたいに素直になれない》
「……千紘さんも素直な人だと思うけど」
千紘さんは控えめな人かと思いきや、自分の気持ちをはっきり伝える人だと思う。
「あ……でも……」
自分の願いを伝える時は、ためらっていたような気がする。
私にお願いをすることなどほとんどないけど、珍しくする時はいつも、温もりを求めるようなことだ。
そしてその時の千紘さんは、毎回、不安そうに伺い見る目をしていた。
《……あたしは、好きって言うの怖いよ。好きだけじゃなくて自分の気持ちを伝えるのが怖い。好意的なものは余計に怖い。自分だけだったらどうしよう、迷惑な顔されたらどうしようって……怖い。だから何度も、ちょっとしつこいくらいに相手から言ってもらえないと、自分から好意的な気持ちを伝えることはできない》
強気に見えるみやびちゃんは本当はとても臆病で繊細な人だ。
もしかして千紘さんもみやびちゃん側の人なのかな……なんて、思った。
「私、みやびちゃん好きだよ」
私はみやびちゃんが好き。
人の気持ちに敏感で、自分の気持ちを押し殺してしまうところも、器用なのに不器用なところも、ぜんぶ愛おしくて仕方ない。
《知ってる。だってもう何百回も聞いてるもん》
「うん。それでもまだ何百回だって言うよ」
《うざ~》
「みやびちゃん大好きだよ。ありがとう」
みやびちゃんと話したおかげで、私が千紘さんにしてあげられることがわかったような気がする。
《……ばーか。23にもなって恥ずかしいこと言ってんじゃないわよ》
「あははっ、何歳でも言うよ。おばあちゃんになっても言うよ~」
《うっさい。あたしお腹空いたからごはん食べる》
「うん。ありがとう」
《別に。あたしだって休みあるんだから、スケジュール合わせてごはんとか行けるんだからね》
「うん。ありがとう。年末までにどこかでごはん行きたい」
《うん。今月はもう無理だけど、来月シフト出たら連絡するから》
「ありがとう。じゃあゆっくり休んでね」
《うん。そっちもね》
「じゃあまた」
《乃々花》
電話を終えようとした時、少し大きな声でみやびちゃんに呼び止められた。
「うん?」
《……あたしに遠慮とか、必要ないから》
彼女らしくないたどたどしい口調で、精一杯の気持ちを伝えてくれる。
「うん。そうだったね」
みやびちゃんの本心を聞いた後で聞いたその一言は、彼女をより愛おしく感じさせた。
《朝でも夜中でも、仕事中でも……あたしのこと呼びつけていいの、あんただけなんだよ?》
「……うん」
みやびちゃんは多分、中学生の時のことを今もずっと気にしてくれているのだ。
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