第八話 ファーストキス

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 〈楽しいこと、美味しいこと、幸せなこと〉を選択して生きてきた23年間だったけど、その中に恋は含まれていなかった。  恋をしたい、したくない、と考えたこともない。  私にとって興味のない分野でしかなかった。  「お待たせ」  千紘さんがトレーに乗せたビーフシチューを運んできた。  テーブルには、サラダ、コンソメスープ、ビーフシチューにごはんが置かれていく。  「シェフ!」  目の前に置かれた食事を前にしたら、千紘さんを自然とシェフと呼んでいた。  「あははっ」    「いただきます!」  よだれが溢れる前に、フォークを手に持った。  「どうぞ。召し上がれ」  千紘さんにいただきますをして、私はサラダから食べ始めた。  サラダには、レタスときゅうり、ミニトマト、アボカド、小エビも入っている。  「おいひい~」  これだけでもメインを張れるサラダだ。  「ふふ、良かった」  「ドレッシングのつぶつぶはなんですか?」  ドレッシングの中に入っているつぶつぶが気になった。  「それはねチアシード」  「チアシード?」  「食物繊維とミネラルが豊富に入った種子なんだけど、そのままかけてもいいんだけど今回はドレッシングに入れてみた」  「えっ! ドレッシングまた手作りですか!?」  この人、シェフだ。  本物だ。  「うん。どうかな?」  「めちゃくちゃ美味しいデス!」  「あははっ良かった」  千紘さんは料理が好きっだと言ってたけど、もう好きを越えている気がする。  味付けも盛り付けもこだわりもプロだ。  むしろそこらへんのプロよりプロだ。  家の中もすごく綺麗だし。  この広さだから、当然ハウスクリーニングでもきてもらっているのだろうと思っていたけど、千紘さんの生活力の高さからして自分で掃除していても不思議じゃない。  料理もしない、掃除もたまーにしかしない私とは正反対だ。
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