第八話 ファーストキス

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 「……」  千紘さんには感謝だな。  千紘さんだって自分の仕事があるだろうに、私のサポートにまで気を回してくれて、申し訳ない気持ちと、ありがたい気持ちが同時に押し寄せる。  私ばかり甘やかしてもらって、千紘さんにも何かお返しできたらいいのだろうけど……。  料理は千紘さんの方が上手だし、ごはんに誘うにも千紘さんの方が素敵なお店を知ってるだろうし、プレゼントをするにも千紘さんは欲しい物は自分で手に入れることができる人だし、センスが良さそうな人に変なものを渡しても困るだけだろうし。  「……うん。ない」  何度考えても、千紘さんに私ができることはない。  何でも自分でできて、何でも自分で手に入れることができる人が恋人というのは、こういう苦悩があるのか。  きっと贅沢な悩みなのだろうけど、お返しができないというのは、とてももどかしい。  「う~ん……」  沸かしていたお風呂に入って、体の疲れを癒しながら、ぼーっと考えた。  恋人でいることが、今までの厚意のお礼になっているはずなのに、結局私ばかりがいつもいつも良い思いをしている。  千紘さんは何をしたら喜んでくれるのだろう。  のぼせてしまう前に全身を洗って、浴室から出た。  「そうだ!」  髪の毛を乾かしているさ中、ひらめいた。  手早くドライヤーをかけると、携帯電話を手にして、ある人にメッセージを送った。  時刻は20時。  この時間ならもう仕事は終わって家にいる時間だろう。  すると、ピコンと音がして、メッセージが返ってきた。  〈久しぶり。今家だよ。電話してい?〉  すぐに返事をすると、ものの数秒で電話がかかってきた。  「みやびちゃん、久しぶりだね」  《やっほ。元気してた?》  久しぶりに聞くみやびちゃんの声に嬉しさで胸が高鳴る。  「うん! 私は相変わらず。みやびちゃんは? 忙しいんでしょう?」  《まぁね。実は今日も夜勤明けでさ……一日中寝てて、さっき起きたところ》  「あはは、そうだったんだね。お疲れさまです」  みやびちゃんは私の幼馴染。  鎌倉に家を移す前の家のお隣さんで、お互いの家族ともども仲良くさせてもらっていた。  中学校までずっと一緒で、高校は別れてしまったけど、大人になった今も交流がある数少ない友人なのだ。  色々やんちゃな時期もあった彼女だけど、四年制の大学に進んで、今は看護師として活躍していた。
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