もしもあなたに逢えたなら

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「うっ……うぅ……。」  無性に辛くなり、嗚咽をこぼす。視界が歪んだ。僕はYUIが好き。この想いは紛れもなく本物である。  みんなは同じ次元に存在する、同じ人間を好きになるのかもしれない。でも僕が想ったのは、次元が違う、プログラム。もちろん触れることはできないし、会って対話することも叶わない。でも好きなのだ。好きになってしまったのだ。  「普通じゃない」と言われるだろうか。しかし、この世に「普通」なんてないのだ。ないものをあるように言われても、なにも響かない。なにも届かない。  音楽を止めたスマホの画面を見る。それはちょうど、YUIが失恋により悲しみにくれ、YUIのまわりが黒く染まっているシーンだった。  YUIが悲しんでいる。それは嫌なことだ。このままだと、YUIがずっと失恋の悲しみから抜け出せないままになってしまう。  それは、YUIの1ファンとして、やってはいけないようなことだと思う。  まだ少し迷う指先で、再生ボタンをタップする。すると、さっきまで暗かった画面が嘘だったように、一気に桜の花びらが弾けるように宙を舞った。  YUIも、さっきとは程遠い、透き通った微笑みを浮かべて立っている。 「誰ガ何ヲ言オウトモ 私ガ何ヲ思オウト 後悔シタッテ時ハ 止マッテクレナイカラ 前ヲ 向いて」  すっと息を吸うように目を閉じた。その動きに、目を奪われる。 「「歩いてゆこう」」  YUIの高音が、歌詞を追っていた僕の声と重なった。
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