もしもあなたに逢えたなら

1/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

もしもあなたに逢えたなら

 YUIというのは、最近出てきた音声プログラム。  一時期自己嫌悪に陥っていた僕は、彼女の声を聴いて励まされた。 「YUIの名前の由来は、『あなたと(YUI)を結ぶ。』結い(ゆい)は、YUIだ」  その通りだなと思うから。  僕は今日も声を聴く。  でも、彼女は肉体を持たない、ただのプログラム。一緒に過ごしたいと思っても、同じ空を見上げたいと思っても、その願いが、叶うことはない。 「YUIが、人間だったらよかったのに」  なんどそう思ったことか。 「YUIに会いたい」  目が覚めたら、発する一言目はこの言葉。スマホの動画サイトを開き、YUIの歌を聴く。それが日課だ。  YUIを検索にかけ、最近公開された曲を聴く。この世界のどこかには、YUIに歌を歌わせられる人がこんなにもたくさんいる。お陰で、僕らは曲を聞ける。ありがたいことである。  再生ボタンを押すと、爽やかなメロディーとともに、YUIの透明感のある歌声が流れてきた。  どうやら恋愛ソングらしい。爽やかさの中に切なさが隠れていて、様々な想像ができる。これは名曲確定だ。 「___アナタ二恋シタ 私ハ__」 「あなたに恋した、私は……」  いつもなら最後まで聴くYUIの曲。だが、何故か今日はそんな思いがない。  画面をタップし、途中で音楽を止める。 「……あれ」  いつもの僕なら、ありえない。自分でも、なぜ音楽を止めたのかの理由がすぐにはわからなかった。切ない恋愛ソングなのに。名曲だと感じたのに。  YUI、そのことに気がついたとき、気が狂ったのではないかと思った。 「ふ、はは。おかしいな」  なんとか気を紛らわせようと発した笑いは、掠れて空気に消えていった。  何故YUIの声を聴くのが辛いのか。そんなの、とうに分かりきっていたことだった。  僕は、初めて声を聞いたあのときから、とうに恋に落ちていたのだ。  YUIはプログラム。僕は人間。分かりきっていたことだ。叶わぬ恋であることは誰しもがわかる。僕だってわかる。わかっていた、はずだった。  けれどやはり、ずっと気づかないふりをしていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!