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夏の終わりに
夕方の空にうろこ雲が、寂しげに浮かんでいる。
夏の終わりにせみが、たくさん落ちて死んでいた。
彼らは、わずかな日々に何を思って、何を遺して逝ったのだろう。
私は、一匹のせみを見つめながら静かに涙を流す。
「あんたは、わずかしか。生きられなくても幸せだった?」
私は、せみの亡骸に問い掛ける。
ここまで、いじめや何も出来ない人間だと周りに散々、言われて生きて来た。
優しくもされてきたけど。辛い事も、たくさんあった。
けど、懸命に自分なりに生きて来たつもりだった。
言葉の刃は、鋭利なナイフのように私の心を切り刻み、傷はなかなか癒えなくて…
恋だって実らなかったけど、何度かしている。
あの人は、元気にしているだろうか?
ふいに思い出す、好きだった相手の顔が、脳裏にちらつく。
最後はあまり、良い思い出ではなかったけど。
このせみ達も、懸命に生きて子孫を遺して死んでいった。
短く太い生。私よりももしかしたら、ずっと、一生懸命に生きていた…のかもしれない。
「私の半生は、幸せだったのだろうか?」自身に問い掛ける。
死にたくなったことも何度も、あったけど、こうして懸命に生きて逝った。
せみ達を見ていると、人の私が簡単に死ぬなんて言えないのかもしれない。
「それこそ、あんた達に笑われるね。私、もう少し頑張ってみようかな…」
夏の終わりに私は、せみ達と内緒の話しをした。
私はスコップで穴を掘り、庭にせみ達の亡骸を埋めた。
そして、手を合わせながらつぶやく、
「私もこれから一年、一年頑張って。生きられますように…また、来年の夏に会わせてね」
私は、夏の終わりの夕焼け空を見上げながら、微笑みを浮かべた。
-了-
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最後までお読みいただきありがとうございます。
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