椎名くんは飲ませない

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 私は胸が熱くなって、椎名くんの熱い手をギュッと握りしめた。 「うんっ」  この世にもしも愛の奇跡というものがあるなら、きっとこれがそう呼べるものだ。  椎名くんは人生で初めて自分から薬に挑もうとしている。  私が渡した解熱鎮痛剤二錠とペットボトルの水を睨みつけながら、震える手を口に運ぶタイミングを図っている。   「頑張って、椎名くん!」 「うん……」  こんな時、椎名くんのお父さんがいたらボイパで応援するんだろうけど、私にはそんな武器もないから声援を送るだけだ。 「余裕だよ、そんなの全然苦くないから! 子供の時のイメージが残っているだけ! 絶対にイケる!」 「藤川……」 「私、椎名くんのこと信じてるからね! 一緒に花火大会行こ!」  椎名くんは頷いた。 「そうだな……。こんなの、余裕……」  そう言って、椎名くんは私を一瞬見つめた。  愛の力を確かめるように。 「見てろ藤川……俺が男になる様を!」  椎名くんは、一気に薬を口に入れた!  でも、秒で吐き出した。 「苦っ。人間の飲むものじゃないな……おのれ藤川。苦くないなんて、俺を騙したな?」  泣きながら私を睨む椎名くん。  どうやら愛の力は秒で消滅したようだ。
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