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「今、味わう前に吐き出したよね」
「ダメだ、体がどうしても薬というものを受け付けないんだ」
「このヘタレが!」
「あーあ。藤川がフジミネコばりのナイスバディだったら浴衣見たさにもう少し頑張れたのかもしれないのにな」
「私のせいにするな!」
もう怒った。こうなったら意地でも飲ませてやる。私は市販薬の箱から再び二錠の薬を取り出した。
「もういいって、無理……」
文句を言いかけた椎名くんの口に、私は無理やり薬を押し込んだ。
暴れる椎名くん。
その口から薬が吐き出される前に、私は彼の首を抱き寄せてキスをした。
熱。
椎名くんの首。
椎名くんの耳。
椎名くんの唇。
みんなみんな、熱っついな。
唇同士が熱でくっついちゃって、剥がれなくなりそうだ。
椎名くんの体がわずかに震えた。
その瞬間、ごくん、と彼の喉が上下する音が聞こえたような気がした。
「ぶはあっ!」
苦しそうに息を吐き出すと、椎名くんはベッドにぶっ倒れた。
薬は無事に飲み下したようだ。
「お薬飲めたね。良かったじゃん」
余裕ぶってそう言ったけど、ちょっぴり声が震えたのが自分でも分かった。
今のはちょっと大胆すぎたかな。自分でもびっくり。
私の心臓が暴れて、肋骨を叩く音がする。
「おのれ藤川──」
椎名くんは真っ赤になった顔面を右手の甲で隠して、悔しそうに呟いた。
「俺を殺す気かっ……」
絶対照れてるよね、これ。
私は思わずヘラッと笑った。
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