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それから二日後。
花火大会当日の夕方。
「おーい、生きてるか?」
熱を出して倒れた私のところに、椎名くんがお見舞いに来てくれた。
楽しみにしていたのに、ミイラ取りがミイラになっちゃったというわけだ。最悪。
「まさか俺の風邪がうつるとはな」
椎名くんが苦笑する。私に移したせいか、薬をちゃんと飲めたおかげか、彼はあの翌日に完全復活を遂げていた。
「椎名ウイルス、きっつ……」
「俺の名前をウイルス名にすな。薬はもう飲んだのか?」
「朝は飲んだけど、お昼のがまだ……。食後の薬なんだけど、食欲なくて寝てばかりだったから……」
「ダメじゃん。薬飲まなきゃ」
どの口が言ってんだ。誰のせいでこうなったと思っている。
でも、それが椎名くんだ。
いつも通りの空気感にホッとさせられる。
「薬の前に何か食べなきゃな。藤川の好きなプリン買ってきた。食べる?」
「ほんと? 嬉し……」
正直まだ食欲はないけど、椎名くんの気持ちが嬉しいから頑張って食べようかな。
私はゆっくりと上半身を起こした。
蓋の包装フィルムを剥がして、プルプルの表面をプラスチックのスプーンですくいあげる。
美味しそう。いけるかも。
「いただきまーす」
プリンを口に運ぼうとしたその時、椎名くんがニヤッとしながら言った。
「それ食べたら、今度は俺が薬を飲ませてやろっか」
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