Case.1 世界の中心にから回り

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Case.1 世界の中心にから回り

「世界に監視されている」  真っ暗な部屋の中で合沢(あいざわ) 糸夜(いとや)の声は小さく震えた。 「誰かに見られている。駅でもスーパーでも学校でもコンビニでも自宅でも、必ず僕は監視されている。奴ら監視員は組織で動いて、僕をずっと監視しているんだ」  コンコン。  扉のノック音にビクッと体を震わせ布団に包まった。 「お昼……ここ置いとくからね」  はぁ、なんでこんなことになっちゃったのかしら。  ノックをした母はそう嘆きながら部屋の前を離れていった。  母も監視員の手中だ。僕の話を疑い僕の友人同様、僕の悪口を話す。先日も電話で僕の事を監視員に話していた。 「当然僕の部屋も監視されている。残念ながらカメラは見つからなかったが、監視されているのは間違いない」  それを証明する為、僕は本棚から漫画を1冊取り出した。  対象が読書を始めた。俗的な本が好きらしい。  僕が漫画を開くとすぐに監視員は僕の行動を報告しだした。これが監視の揺るがぬ証拠だ。漫画の中も僕がここに居る事を示す目印が書いてある。  ぴったりと閉められたカーテンを少しずらして外へ視線を送る。家の前の道路に黒い車が止まっていた。 「あれも僕を監視している監視員だ。毎週決まって火曜日にあそこに止まって僕を監視している」  車は動く気配は無い。僕が見てる事にも気付いているのだろう。逃す気は無いらしい。 「そのせいで火曜日は外に出られない。出たら誘拐されてしまう」  頭を掻きむしる。肩にフケが降り積もるが一向に気にする様子は無い。 「コンビニはまた今度行こう」  ハァとため息を吐き、布団に座り込んだ。 「僕がこんな窮屈な生活を送らなきゃならなくなったのはそもそも高校での事が原因なんだ」  僕は高校に入ってすぐクラスメイトに陰口を言われるようになった。それも中学の頃中の良かった奴らを中心に。僕はいい加減ムカついて聞こえてるぞと言う意味も込めて机を少し叩いて驚かせてやろうと思った。  「しかし、これが僕が監視員に見張られるきっかけとなってしまった」  バンッと叩いた机は真ん中から真っ二つに折れた。あんな事、僕も予想外だった。あんな力が僕に有るなんて、あんな事になるなんて一切思っていなかった。  あいつがやったのか? はやく知らせなくちゃ。 「先生ー! 糸夜くんが!」  僕を中心に騒然とした教室。そこで僕は気づいた。僕には特別な力が有ってそれが世界に狙われているって。そして僕はその強大な力を監視員の前で使ってしまった。そのことに気付いた僕はじんじんと痛む手なんて気にせずその場から逃げ出した。  その日から僕の日常。その全てが一変した。どこに行っても何をしてても誰かに監視される日々。監視員共が僕を誘拐しようと企み始めた。 「それから僕は1度も外を出ていないのに……」  カーテンを閉じて隙間を覗く。家の前に探偵服を着た人と、全身真っ黒い服の人が僕の家のチャイムを鳴らした。  「監視員だ。遂に侵入してきた」  糸夜が少し力むと持っていた漫画は豆腐みたいにぐちゃぐちゃに千切れた。
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