Case.1 世界の中心にから回り

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「なるほど。一度糸夜くんと話をさせて頂いても良いですか?」  あっけらかんとした雰囲気はどこへやら最後まで話を聞いた詩乃は神妙な面持ちだ。 「はい、ただ話せるかどうか」  合沢を先頭に真ん中に詩乃最後に私の順番で2階に上がった。2階に上がってすぐの扉の前にはお盆に乗った料理が手付かずで放置されていた。  コンコンコン。 「こんにちは糸夜くん。少し話を聞かせて貰っても大丈夫かな?」  赤子をあやしてるみたいなとても優しい声だ。 「……何の用だ監視員共め」  そんな詩乃に反発する糸夜の声。その低い唸り声は怪物を彷彿とさせた。 「えっと、扉は開けない方が良いかな?」 「当たり前だ! 開けた瞬間に誘拐するつもりなんだろ」  糸夜は取り付く島もないくらいにこちらへの警戒心が高い。 「安心して下さい糸夜くん。私は監視員では無いですよ、糸夜くんを監視員から助けに来たんです」 「嘘だ! 監視員供も仲間だと言ってるぞ! そうやって俺を騙して! 誘拐するつもりだろ!」  ドンッと衝撃音が鳴った。恐ろしいことに家が少し揺れた程の衝撃だ。糸夜は完全に心を閉じており、いくら詩乃が優しく声をかけても一向に扉を開くことはない。 「うーん。一回リビング戻りましょうか」 「息子は治りますよね?」  リビングの椅子に座るやいなや合沢は詩乃へ詰め寄った。 「落ち着いて聞いてください。糸夜くんはおそらく統合失調症です」  統合失調症。僕でも病名くらいは知ってる病気だ。 「統合失調症……うちの子はおかしくなってしまったんですか?」 「いえいえいえいえ、統合失調症は100人に1人程度の人が罹る至って一般的な病気ですよ」 「それでも! 統合失調症って……」 「確かに一昔前は不治の病なんて呼ばれていましたが、今はもう治療薬も開発された病気です。ただ、恐らく今の糸夜くんに薬を渡しても逆効果でしょう。また明日カウンセリングに来ますね。もし何か有りましたら、こちらの電話番号まで」  鞄からメモを取り出して渡し僕達は合沢家を後にした。 「……統合失調症ってあんな風になるんですね」 「最初はよく分からない不安があったり少しピリピリしてるだけって事もあるんだけどね。これから彼とは長く向き合う事になるだろうし、統合失調症について簡単に教えてあげようか」
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