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「離せ! 誘拐するつもりだろ!」
公園に入ってすぐ、目に入ったのは2メートルを超える大男に羽交い締めにされたジーパン姿の少年だった。
「え、あれ……捕まってるのは糸夜くんですか?」
「あーっと……そうだね。蟻塚くんそのまま抑えられる?」
コクリと頷く蟻塚。
「クソが! 離せよ!」
糸夜がじたばたと暴れるが蟻塚の丸太サイズの腕はびくともしない。
「あ、詩乃先生。来てたんですね」
痩せぎすで若干くたびれた白衣を着た細目の男が蟻塚の後ろからひょこっと顔を出した。
「狐地くん。とりあえず糸夜くんのこと安静に出来る? あれじゃ糸夜くんが壊れちゃう」
びくともしない蟻塚に糸夜は諦める事なく、何度も体をジタバタと動かす。その度に糸夜の腕や足がバチッブチッと明らかに人の体から出てはいけない音を発していた。
「はい」
狐地は白衣から注射器を取り出し蟻塚の腕の中で暴れる糸夜の首元に刺した。
注射器が抜かれると同時に糸夜はビクンと体を震わせて動かなくなった。
「え、あれ大丈夫なんですか? それにこの人達は?」
「彼ら3人が私の同士であり、詩乃クリニックで働く他の従業員だよ」
「3人?」
詩乃が広げた手の先に居るのは、糸夜を抱える蟻塚、注射器を持った狐地、そして蟻塚の腕の中で気絶している糸夜の3人だけだ。
「ってあれ、鶴見ちゃん来てないの? 紹介しようと思ったんだけど」
「いえ、ここに来る時は一緒でしたが……」
「後ろです」
僕達の背後から凛とした女の子の声が小さく響いた。
驚いて振り返ると、白い着物を着て、片目を前髪で隠した無表情の女の子が立っていた。
「こんにちは。詩乃先生」
女の子は詩乃の前に立つと詩乃を片目でじっと見つめた。
「こんにちは鶴見ちゃん。そっちに居たんだね」
「初めまして、億利さん」
鶴見はこくりと頷くと、今度は僕に振り返ってじっと片目で見上げた。紫色の綺麗な瞳に思わず吸い込まれそうだ。
「は、初めまして」
僕は何歳下かも分からない少女に若干気圧されながら軽く頭を下げた。
鶴見はこくりとまた頷くとそそくさと蟻塚の横に立つ。
「これで全員だね。早速紹介して行こう」
また詩乃が大きく手を広げた。今度は確かに3人そこに立っていた。
「糸夜くんを持ち上げてる彼が蟻塚 優吾くん。異能で巨大化してるけど普段はあんなに大きく無いよ。仕事は主に力仕事だね」
「蟻塚、です。普段はジム……やってます。よろしく、ね」
蟻塚は糸夜を抱えたまま首だけでお辞儀をし
た。体格からは想像出来ないくらい優しい声だ。
「あ、どうもです」
「その隣の白衣の男性は狐地 笑路くん。薬の調達や機械全般を担ってもらってるんだ」
「狐地です。よろしくお願いしますね。何か壊れた家電や機械があれば是非直しますよ」
狐地は張り付いた笑顔で青白い手を億利に伸ばした。
「はい」
僕はその手を握り握手を交わした。その笑顔と肌の白さのせいか何とも胡散臭いオーラを発した人だ。
「最後に蟻塚くんの後ろに隠れてるのが同志の最年少。鶴見 鈴ちゃん」
「鈴です。看護師です。よろしくお願いします」
無表情のままペコリとお辞儀した鶴見。
「少し人見知りだけど、仲間想いのいい子だから、仲良くしてあげて欲しいな」
「最後に、私達の新しい同士で僕の補佐役、億利病くん」
そう言って詩乃は僕を少し前に押す。
「億利病です。補佐と言っても、記録取ってるだけです。よろしくお願い、します」
僕はギクシャクとしつつも話し終えて一礼した。自己紹介なんて高校ぶりだ。
「宜しくね」
「よ、よろしく」
「よろしくお願いします」
挨拶を終えてもなお鶴見は億利をじっと見つめて来ていた。
「あの、どうかしましたか?」
「……」
鶴見は僕に見られてると気付くとプイッと顔を逸らしてしまった。
「ごめんね。人見知りしちゃって、緊張すると口下手になっちゃうんだ。多少仲良くなれれば可愛い気も有るんだけどねぇ」
そっぽを向いた鶴見の頭を狐地が撫でるが。
「やめて」
ペシっと鶴見は即座にそれを振り払った。
「同志の方も異能を持ってるんですね」
「うん。3人も元は私の患者だった人達だからね」
「へぇ……」
という事は、他の2人も異能を持ってるのだろうけど、一体どんな異能を持ってるんだろう? 気になったが、何となくプライベートな事かと思って聞く気にはなれなかった。
「……さて。自己紹介も済んだし糸夜くんを病棟まで運ぼうか」
僕達は詩乃を先頭に病棟へ向かう事となった。
億利達が来たクリニックへと続く道を戻りクリニックの入ったビルの前まで来た。
「病棟はここの近くなんですか?」
「近く、というかここが病棟だよ」
詩乃が指差した先はクリニックの入っているビルだった。
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