Case.1 世界の中心にから回り

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「えっとクリニックの後ろにあるんですか?」 「じゃなくて、このビルの中に病棟があるんだよ」  僕は詩乃に押されてビルの横の路地裏に入った。路地裏には白い1枚の扉がひっそりと付いていた。 「それじゃ、開けますね」  狐地は白い鍵を取り出し鍵穴に刺した。  ガチャリと音を鳴らして扉が開いた。狐地がカチッと壁のスイッチを押し、電気をつけると地下に続く階段が現れた。 「え、ビルの地下に?」 「うん。このビル自体私たちの所有物だからね」 「……え、ビルごと?」  なんてことないように言いながら詩乃は階段を下りていく。 「さぁ億利さんもどうぞ」 「は、はい」  狐地は全員が入るのを確認して扉を閉めた。階段を下りた先は病棟の名にふさわしく、少し特殊な薬の匂いが鼻に付く病院の受付そっくりだ。 「蟻塚くんは糸夜くんをベッドに。鶴見ちゃんはリスペリドン持って来て」  詩乃は素早く指示を出し、それに呼応して僕を除いた全員が一斉に動き出した。  狐地と蟻塚は糸夜を抱えて病室へ、鶴見は受付の中から薬を取りに入った。  億利は詩乃が病室に入るのに何となくついていく。  蟻塚がベッドに糸夜を下ろす。 「ありがとう。異能も解いちゃっていいよ」 「は、はい」  すると蟻塚の体は見る見るうちに小さくなっていき、160センチほどの青少年に変わった。先ほどまでの大男と同一人物とはおよそ思えない。 「一体、どういう理屈で......」 「蟻塚くんは異能で筋肉の膨張と縮小を自在に行えるんだ」 「でも、膨張させると、エネルギー消費が多くなるから、何日も連続で、は、無理だけどね」 「あんまり無理はしないでくれよ」 「う、うん」 「リスペリドン持ってきました」 「ありがとう。すぐに投薬して」  鶴見は持って来た注射器をそのまま糸夜に刺す。ちょこんとした見た目からは考えられない手際の良さだ。その手腕に思わず見とれて、ふと目が合うもそらされてしまった。 「本当に僕、嫌われて無いんですよね?」 「大丈夫。数日もすれば鶴見ちゃんも慣れてくるよ」 「そうですか? そんな雰囲気には見えないですが」 「大丈夫。そういうものだよ」 「薬は投与しましたが、この後はどうしますか?」  注射を終えた鶴見が僕らの間に割って入った。 「糸夜くんは起きそうにないし、今日は解散しようか。億利くんもまた明日」 「はい、お疲れ様でした」 「また明日」  僕が階段を登ろうとすると、後ろからぼそっと聞こえた鶴見の小さな声に驚き振り返るも、鶴見はもう受付の中に入って見えなくなっていた。  僕は先ほどより心なしか上がった気分でクリニックを後にした。
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