バブみバース~卒パの後でばぶちゃんを拾ったら、公爵令息だった件~

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バブみバース~卒パの後でばぶちゃんを拾ったら、公爵令息だった件~

ばぶに、なっていた。 「ばぶ、ばぶばぶ」 「どうしたの、ばぶちゃん。ままんですよ」 「ばーぶっ!」 ばぶちゃんは俺に呼んでもらえたのが相当嬉しかったのか、突進するように俺のお膝目掛けてスライディングお膝枕をキメた。 ※危険なのでマネしないでください。 さて、どこから話そうか。まず、この世界はバブみバースの世界である。 バブみバースとは、ばぶ、ままん、それからどちらにも該当しない普通の男が登場する。因みにこの世界、男しかいない。男同士でも繁殖可能な世界観だ。 そして、ばぶとままんは人口のおよそ各一割程度。他8割はばぶでもみんでもない普通の男。ただし繁殖可。ただし、この世界の男には受けと攻めがおり、受けと攻めが結ばれることで繁殖が可能となる。じゃないと世界滅ぶもんね。そこら辺はご都合主義。 さてさて、まずばぶとは、1ヶ月に一度程度2~3日ばぶになってしまう二次性のことである。ばぶは優秀で美形揃い、ハイスペックなことが多い。いわゆるカリスマスパダリタイプ。キャリーッスマスパーッダリタイプッである。 え、意味分からない?ちょっと英語風に言ってみたんだ。 んぇ?そもそもスパダリ英語じゃない?和製英語?えぇやないけ、ここは異世界。 俺のように地球から転生した記憶のある、なおかつ英語のネイティヴスピーカーと出会わない限りは、キャリーッスマスパーッダリタイプッってことで。 なお、俺は日本生まれの日本育ち。じいちゃんがスペインのひとだから、ちょっとしゃべれるのは英語じゃなくてスペイン語だよっ!英語は中学生よりも分かんないよっ! けっこうがっかりされるけとえぇやんけっ!? パエリア美味しいもんッ! あと、見た目は普通の日本人!もろ日本人~!じいちゃんの血ほぼ受け継いでないやんけ~。なお、兄がいたが、兄は確実に隔世遺伝しており、めちゃイケメンだった。ぐっ!悔しくなんてないもんっ! 俺だって、転生して異世界人になって、アイスブルーの髪に紫水晶の瞳を持ったままん味のあるかわいらしい受け男子に生まれた。二次性はもちろんままんである。 なお、俺には兄がいて、ばぶである。しかも前世でも兄である。さらにはめちゃイケメンなんだ。……ほんと、ずるくね? ただ、兄は英語もスペイン語もダメ。俺がスペイン語の通訳しないといけないレベルだから、キャリーッスマスパーッダリタイプッは、特に何のダメージも受けない。 むしろ兄がマネしだすと、瞬く間にこの異世界で暮らしているファンタジー国家の流行語フェスティバルで優勝しちゃったよ。あれれーん。 なお、今のところ前世英語圏のひとだったと言うひとから、クレームは受けていないようだ。兄にも確認したから大丈夫。 むしろあのイケメンばぶ兄貴にキャリーッスマスパーッダリタイプッを言わせたことをファンに咎められるのではとびくびくしたが、杞憂であった。 みんな、兄が言ったことでノリノリ、ますます兄のキャリーッスマスパーッダリタイプッを盛り立てた。 いやほんと、イケメンってずりぃわ。 おっと、何の話してたっけ?そうだ、二次性の話である。ばぶの話である。 定期的にばぶ化するばぶと言う性は、ばぶ語やマミーなどしかしゃべれなくなってしまう。 しかしままんによしよしされながら過ごすことでとても心地よくばぶ周期を過ごし、いつもの優秀さを振り撒くことができるわけだ。 なお、ばぶはばぶ周期以外でもばぶ化することがある。要因はストレス、ショック、寂しさなど様々。その時はままんによしよししてもらい、リラックスすることで戻る。 ばぶ化抑制剤はあるっちゃあるものの、精神的負担が伴うのであまりおすすめできない。使うのは、どうしてもの時のみ。通常はかうしてままんにかわいがってもらうのが一番なのだ。 そしてばぶちゃんを癒すことのできる存在がままんと呼ばれる二次性である。 俺もままん。ままんにはお世話好きなひとや、困っているひとを放っておけず、困っているばぶちゃんや、不安そうにしているばぶちゃんを見つけたら、ついついかわいがってよしよししてしまう、そう言う性格のものが多いと言う。まぁ、俺もそんな感じなのだが。 そして今も…… 俺は広いホールで拾ったばぶちゃんをホールの片隅の座り心地のいいソファーでよしよししてあげている。 「でも、何でばぶ化して彷徨っていたんですか。ルークさま」 しかも、知り合いだった。 ルーク・シュガーミルク公爵令息、18歳。 このなんちゃって西洋風ファンタジー異世界は、王政である。そしてそんな世界の、このベビバディー王国の王族の次に権力を持つ、シュガーミルク公爵閣下のご令息、それも長男だから跡取り。 夜露が濡れたような黒髪にローズレッドの瞳をしている。 「ばぶぅ、ばぶっ!マミー、ばぶばぶっ!」 何かを伝えようとしている……でも、かわいいことだけはわかった!! ばぶ化した兄や父を見たことはあるけれど、いざ自分のお膝の上にいてくれると、かわいいものだなぁ。 「僭越ながら、そこのままん殿」 突然現れた従者らしき藍色の髪に切れ長のペリドットの瞳の美青年。 多分、ばぶちゃんの従者?そりゃぁ名家のご令息だ。供のひとりやふたり、いるよなぁ? 「リオです。エンジェルウィング子爵家の、次男の」 「あぁ、あのエンジェルウィング子爵家の」 え、知ってるの?うちみたいな弱小貴族家を、公爵家の侍従が? 「キャリーッスマスパーッダリタイプッで、有名な」 ぐはっ。いや、確かに流行語フェスで頂点とったけども。 「ご子息殿。失礼かと存じますが、その流行語の産みの親は次男殿だと」 「えぇ、まぁ?」 うん、兄も授賞式で俺が産みの親だと発表してしまったし。俺は目立ちたくなかったのだけど。スッパーダリな兄が言った方がほら、絵になるもん。でも前世からの縁である兄はついついくちばしってしまった。 まぁその後の兄のスッパーダリ連呼によりその発言は注目されることはなかったのだけど。どうしてそのことを、わざわざ? 「……キャリーッスマでひなく、クリーズムですね」 「ぎゃふぅっ!!」 まさかのネイティヴスピーカーこんなところにいたよぉぉぉっ!! 「と言うか、ぼっちゃまが懐いてしまわれたので、あなたごと公爵家に連行させていただいても?」 いや、連行?連行って、言い方!でもまぁ、俺はしもじもの者だし、別にいいけども。 「ばぶ!マミー、ばぶばーぶっ!」 侍従さんに俺を自慢するように告げるルークばぶちゃんはかわいいけどなー。 「さ、お運びなさい!」 侍従さんが告げれば、突然上から黒ずくめの……じゃないっ!ローズレッドずくめのひとたち降ってきたぁ~~~~っ!そこは黒じゃないんかいっ!!みんなローズレッド……赤まみれだけども、怪我はしておりません!ここ重要、単に全身を覆う布が赤いだけです!しかもよくみると、繊細な薔薇模様~~~~っ!シュガーミルク公爵家のシンボルでもある薔薇があしらわれてる~~っ!? そして俺はルークばぶちゃんと、――――――ソファーごと、公爵家に連行された。うん、マジでソファーごとどてかい馬車に入れられましたとも。 そんなこんなで、ここはルークばぶちゃんの寝室……だと言う。何人寝れるんだよと言うどでかいベッドの端に腰掛けながら、ばぶちゃんは俺のお膝に頭を委ねて寝っ転がり、とてもリラックスしている。 「あの、従者さん」 「エリザベーオです」 え、えりざ、べーお?確かにこの世界、男しかいない!受け男子に女の子っぽい名前がついていることあるけど!リオちゃんも日本では女の子に使える名前だけど!? でも、さすがにエリザベスちゃんに会ったことはない!だからって、エリザベーオ……?『オ』つければ男の子の名前になるとか、そんなことないからな!?何でエリザベ……に『オ』ぉつけたんじゃいっ! 「あなた今、エリザベスじゃないのかと思いませんでしたか?」 エリザベーオさんの鋭い眼光が俺を射貫く。ギクギクギクッ!! 「エリザベスは、兄の名ですので間違わないように」 いーや、お兄さんエリザベスだったーっ! 「受けですか?ままんですか?」 そう言うパターンかな? 「攻めの、ばぶですが?」 「……そうなんですか」 「えぇ」 そう言うことも、あるんだなぁ。多分こっちの世界のひとは気にしていないけど、ネイティヴスピーカーのエリザベーオさんは気になるのかもしれない。 「大変だね」 「……いえ、ばぶぼっちゃんの世話に比べれば」 「本人の前で言っていいのかそれは」 「日常の常套句ですから」 うえぇ~~っ!? 俺はつい先日まで立の学園に通っていた。国内の王族貴族が通い、他国から留学生の王族や貴族も迎える名門校。平民も優秀なら入学できる。 今日はそんな学園の卒業パーティー。つまり卒パであった。 俺もルークばぶちゃんも卒業生で、同学年ではあったものの、公爵令息なんて雲の上のおひとなのでしゃべったこともない。ただ、ルークばぶちゃんは生徒会の人間だったし、式典やなんかでも、生徒会長だった王子殿下の代理で挨拶することもあったから、顔は知っている。その程度の関係性だった。 まぁ、その卒パでは、前世のエンターテイメント各種で連日取り上げられ、人々を魅了してならない断罪劇がおっぱじめられた。 まさか、自分がその場に居合わせるとは思いもしなかった。むぁ、王子と同級生だものね。そんなこともあるあるー。 そして、男爵令息なのに高位貴族たちを侍らせていたいかにもなヒロイン、マロン・ロールケーキくんが、王子に抱きついて、そして王子が婚約者の公爵令息を断罪した。もちろんルークばぶちゃんんではない。 シュガーミルク公爵令息ではない、別の公爵家ーーベビーマフィン公爵令息である。 しかし断罪の最中、コメット・バブブ・ベビバディー王子殿下が突如としてばぶ化、目の前にいた最愛のままん、マリン・ベビーマフィン公爵令息に飛び付き、ままんへの愛を叫んだ。 当然、マロン・ロールケーキくんは激怒。ばぶ王子を呼ぶが、ばぶ王子はマリンままんが大好き、離れず、無理矢理引き剥がそうとしたマロンくんがばぶ王子の護衛騎士たちに引き剥がされて敗北。 『せっかくの攻略があぁぁ~~っ!』と叫んで崩れ落ちていたので、彼も多分転生者なのだろう。だがキャリーッスマスパーッダリタイプッを堂々と叫んでいたので、英語のネイティヴスピーカーではないのかも。ひょっとして彼も日本人? もしかしたらこの世界の原作のようなものがあったのかもしれない。 でも、マロンくんは確かーー『ばぶとままんなんて原作になかった~~っ!』と叫んでいたから、バブみバースはこの世界のオリジナルらしい。 そしてばぶでもままんでもなく、ばぶ王子最愛のままんがマリンままんだったことで攻略は頓挫した。 どんな原作の強制力も、ばぶちゃんの本能には勝てなかったらしい。 その後、彼を囲っていた攻略対象とおぼしき高位貴族令息たちは、みんな揃ってばぶ化。駆けつけた彼らの婚約者ままんたちに飛び付き、みなままんへの愛を取り戻しハッピーエンドである。 そう言えばその時、ルークばぶちゃんはいなかった。 ばぶままんトゥルーエンドを楽しんだ俺は再度ばぶ王子とマリンままんを祝福するモードの参加者たちを微笑ましく見ながらも、ちょっと胸がざわざわ?もぞもぞ?むずむずかな?しちゃって会場の外に出ていたのである。 やっぱりままんの本能として、ばぶちゃんをかわいがりたい?そんな思いがありつつも、俺は婚約者のばぶちゃんがいなくて、胸が苦しかったのかもしれない。 しかし…… 「ルークばぶちゃんまでばぶ化しちゃうなんて」 「ぼっちゃんは、地球の日本で流行ったドキドキヒロインざまぁBLゲームの隠しキャラなのです、だからヒロインも卒パの時点で攻略できなかったのでしょうね」 「ちょぉぉ――――――っ!?ベーオさん!?何でそんなこと知ってるの!?」 「オタクですから」 「さすがぁっ!!」 すげぇ、ベーオさんハイスペやんんんっ!! 「てか、ヒロインざまぁもの?それで栗ん栗んはよく攻略しようとしたね、ざまぁされんのにさ」 「まぁ、正ヒロインは隠攻略対象の婚約者ですからね。それを逆にざまぁして、攻略しようとしたのでは?ほら、悪役令息の逆ざまぁ流行っていたじゃないですか」 「あぁ、そゆことね」 やろうとしたけれど、この世界はバブみバースだったから失敗したと。 「あのこままんでもないのに」 「あはははは――――……」 よくやるわ。その情熱、もっと他んとこで活かせないもんなのかねぇ。 「そう言えば、ルークばぶちゃんは婚約者は?ままんに来てもらわないと」 俺はピンチヒッターを務めたまで。早くばぶちゃんのためのままんに来てもらわねば! 「婚約者はおりません。なかなか合うままんが見つからなかったのです」 「え……?」 「でもあなたが気に入られたのは奇跡ですね。これを機に、うちのぼっちゃんをどうぞよろしくお願いします」 「ばぶっ!」 ば、ばぶちゃんまでえぇぇっ!? 「でも俺はしがない子爵令息だよ!?公爵令息となんて合わない合わない」 「ばぶ!?ばぶ~~~~っ!!!」 その瞬間、ルークばぶちゃんが目に涙をためて、部屋に強風が吹き荒れる。 「ぎゃ~~~~~~っ!?」 「ばぶぅ――――――っ!マミいぃぃぃ――――――っ!!!ばぶぅ~~~~~~っ!!」 「あなたが否と言う限り、うちのぼっちゃんは、魔法で世界を破壊しつくしますよ!?ままんと合わなくて暴走したことは数知れず!公爵家の城は結構な頻度で破壊しております!旦那さまばぶと一緒に泣きだすと、手に終えませんよ!!旦那さまは奥さまがあやせば何とかなりますが……ルークぼっちゃんは気の済むまで!!」 「ヒイィィィ――――――――っ!?やめてえぇぇっ!?やめて、ばぶちゃん!!俺でよければ誠心誠意ばぶちゃんのままんしますうぅぅぅ――――――――っ!!」 そう叫べば、その瞬間。 「ばぶっ!」 ばぶちゃん大満足、風は止み、部屋はめちゃくちゃ。多分部屋以外もだ。壁は破壊され、夜空の星がキレイである。 「2号邸に移りましょう」 「……そうしてください」 こうして、ばぶちゃんのままんになった俺だが、ばぶちゃんをかわいがるのはとっても楽しい。 「ばぶぅ――……ばぶぅ――……、ばぶっ!」 ばぶちゃん、うたた寝をしつつも、ままんを視界に入れたいのか、たまに起きる。 「ばぶぅ――……ばぶぅ――……、ばぶっ!」 本当にかわいいなぁ。 公爵夫人のお母さまと微笑ましく眺めていれば…… 「ばぶぅ――……ばぶぅ――……、ばぶっ!」 公爵のお父さま(もちろんばぶ化中)も同じことやってるうぅぅ~~~~っ!? そんなこんなで、ばぶちゃんたちのばぶ期が明けたのと同時に、俺たちは式を挙げた。 「リオ、愛している」 ばぶ期が明けてしゃべるようになったルークは、日々愛を囁いてくる。 ばぶ期に言えなかった愛をたくさん囁きたいようである。 「俺もだよ、ルーク」 そして実家の家族や公爵家のお母さまたち。参列者に見送られながら、神父さまの元へ。 「えぇーと、僭越ながら、リオ・エンジェルウィング改め、リオ・シュガーミルク夫人」 「はい?」 何だろう。この後は誓いの言葉だったはずだが。 「キャリーッスマではなく、クリーズム、ですよ」 神父もかあぁぁぁ――――――いっ!!いや、謝るからっ!!とってもすみませんでしたぁ――――――っ!その件はどうぞお許しくださあぁぁい!! いや、まぁその後しっかりと誓いの言葉を交わし、ルークと口付けを交わしたのだが。 「ばぶ」 「ふへ?」 「マミー、ばぶばーぶ」 「またばぶになっちゃったあぁぁぁ――――――っ!?」 ばぶは、ままんにとっても甘えたい時にも、ばぶになるものである。 結婚式で俺と結ばれたことで、幸せの絶頂のばぶちゃんは、俺に目一杯甘えるために、ばぶ化したのだ。 公爵夫人のお母さまが、披露宴を2日後にしたわけが……今分かった――――――。 「それじゃ、今日はたぁっぷり、かわいがってあげてね」 「はい」 公爵夫人のお母さまの言葉に苦笑しながらも頷けば…… 「ばーぶっ!」 ルークばぶちゃんがとっても幸せそうに俺を抱き締めたのは、言うまでもない。 (完)
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