五章 君の気持ち、ここから始まる

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「一平、大丈夫…俺はここにいるから」 「…なんで、なんで涙が止まらないんですか…」 「辛かったからだよ…俺もお前も…」  ずっと互いに溜め込んできた苦しみや辛さを吐き出すからこそ、その塊が涙として零れ落ちてしまう。だから、その塊はここで全て吐き出せばいい。沢山、吐き出してしまえばいいんだ。 「全てを吐こう…俺も全てを吐かせてもらった。だから一平も、その辛い想いを吐き出していいんだよ?」 「…ううっ…ゆ、優太さん…っ!!」  いつも爽やかで甘ったる一平から流れ落ちる涙は、全くに甘味を感じない。ほろ苦く、重みを帯びた塊がボロボロと落ちていく。  君も君で、辛い想いと向き合ってきたんだね。  気付いてあげられなくてごめん…でも俺たちは、普通の恋をしていないからこそ、君の気付いてあげるまでに時間がかかった。 『全てが罪なわけじゃない、救われることだってある。それを切り開いてあげるのは、君なのかもしれないよ?』  大輔さんの言葉が俺の脳裏を過ぎる。  そうだ、ここからだ。ここから俺は君を救い出してあげたい。俺に出来ることがあるのであれば、俺は君の力になりたい。  だから、君の本当の気持ちをもっと教えて…?  クールでかっこいい一平が声を上げながら涙を止めどなく流していく。そんな一平を俺は泣き止むまで優しく抱きしめ、頭を撫で続けてあげたんだ。  ◇ ◇ 「…ごめんなさい…取り乱しました…」 「謝んなって。俺もさっき取り乱した」 「…僕たち、どこか似てますよね…」 「ああ、それは俺も感じていたよ」  涙も収まり、いつも迄とは言わなくとも、爽やかでクールな表情に戻った一平。そして、互いに取り乱した姿を見せ合った俺たち。  取り乱せると言うことは、互いの心から溢れる本当の気持ちを話せている証拠。取り乱したとしても、その想いを心から受け止めてくれる人がいるから出来る行為。  俺たちはもう、そういう関係なのかもしれない。いけない恋だと、好きになってはいけないと思っているのに心は素直に君を見つめている。  ならば、もっと君を知りたい。  知った先に何が待ち構えようと俺は君の傍にいたい。もう、この気持ちも隠さない。 「どうして、彼女と過ごしてるんだ?」 「逆にどうして一緒に過ごしてると思いますか?」 「質問に質問で返すか…分かんねぇよ。俺なら絶対に嫌なヤツとは過ごしたくねぇもん」 「ははっ!優太さんらしい」 「んなっ!またバカにしたか!?」 「してませんって!…ただ、羨ましいって思いました」 「どうしてだ…?」  彼女と過ごす最後の謎がとうとう開かれる時が来た。一平の質問に『分からない』と答えたΩの俺には、到底答えられないような返答がこの後、開かれることになったんだ。
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