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トモヤは視線を外し、少し思案してから、またナナミを見た。トモヤの額には汗が浮かび、苦しげに見えた。
「怒らないで聞いてほしいのだけど」
「うん」
「ちょっとした薬を入れたんだ。ごめん」
「え?」
ナナミは背中に真冬の風が吹きつけたように、ゾクッとした。
「単なる、おまじないだ。僕は本当に効果があるなんて思っていないけど」
トモヤがズボンのポケットから茶色の小瓶を取り出す。
ナナミはその瓶に見覚えがあった。
「その薬って……」
なんとなく呼吸もしにくくて、ナナミは喘ぐように尋ねた。背中がぞくぞくして、寒気がして、身体中から汗が止まらない。
トモヤの額から汗がぽつりとテーブルに落ちた。
「SNSでうわさになってる、惚れ薬なんだ。ナナミがトイレに行ったとき、僕とナナミのワインに、半分ずつ入れた。今日、ナナミと話して、僕らは同じ気持ちだとわかった。だから、僕らに必要なのは、あの頃みたいな情熱だけだ」
ナナミの目から涙があふれた。
「ごめん、トモヤ。ごめん」
「ど、どうしたんだ?」
トモヤは急に泣き出したナナミを見て動揺している。シャツの胸元をぎゅっと握り締めたまま。
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