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「どちらが悪いとかではなく、お互いに熱が冷めてしまったといいますか。たぶん、むこうは離婚を考えていて、私も離婚について考えてみたんですけど、でもやっぱり、もう一度やり直せるなら、やり直したいと思って、ここに来ました」
何か嬉しくないアドバイスでもされるのではないだろうか、とナナミは身構えたが、そんなことはなく、老婆は懐から茶色の小瓶を取り出した。
半信半疑だったナナミは少し動揺してそれを受け取った。
「あの、お代は」
老婆はナナミの質問を遮って、
「誰も彼もが愛し、愛されたい。そうだろう?」
「……ええ」
「自分に半分、相手に半分。それで二人は出会った頃の熱を取り戻す」
「飲めばいいんですか」
老婆がうなずき、石のネックレスが音を立てた。
「ただし、決してそれ以上は飲まないように。過剰な愛が毒であるように、それを丸々飲み干せば、たちまち死に至る」
「全部飲ませて相手を殺すこともできる、っていうことですか」
ナナミは小瓶を持つ手が震えた。
老婆はその問いには答えず、再び元のようにうつむいた。
「お代はいらないよ」
***
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